ちなみに、この2つの例は、私が夫によく指摘されることです。あまりに早くからタスクにとりかかることで、二度手間になる、もしくはその失敗を軌道修正するために、かえって多くの認知的、身体的、さらには金銭的なコストを背負うことになるのです。

「仕事が早い人」の
性格面での特徴はあるのか

 次に、ワーキングメモリとは少し違った切り口から、前倒しとパーソナリティ(人格)との関連をみていきましょう。まずはその導入として、人のパーソナリティを5つの特性に分類する「ビッグファイブ(Big Five)」を紹介します。

 人のパーソナリティにはいくつかの特徴的な側面があります。心理学では、この側面のことを特性という言葉で表現します。このさまざまな特性を、次の5つに分類したものがビッグファイブです(図表4-1)(注3)。

図表4-1:ビッグファイブの5つの基本特性と特徴同書より転載 拡大画像表示

 ビッグファイブの歴史は、1930年代まで遡ります。そもそもパーソナリティとは、その人を特徴づけるさまざまな行動傾向や感情の特徴の個人差を指します。そして、この個人差は比較的変化しにくく、時間や場所を超えて一貫しているものと捉えられます。

 アメリカの心理学者オールポートらは、性格に関する約4000語の特性用語を抽出し、それらを分類しながらパーソナリティの特性論を展開しました(注4)。

 以降、1980年代にかけて、性格特性用語の分類、構造の解釈などの検討を通じ、パーソナリティは5つの基本特性にまとめられました。そして、それらの特性の組み合わせによって個人差を捉えるビッグファイブの考え方が、次第に定着していきました。

(注3)和田 さゆり(1996).性格特性用語を用いたBig Five 尺度の作成、心理学研究、67(1)、61―67.https://doi.org/10.4992/jjpsy.67.61
(注4)Allport, G. W., & Odbert, H. S. (1936). Trait-names: A psycho-lexical study. Psychological Monographs, 47 (1 ), 1-171. https://doi.org/10.1037/h0093360