懲戒解雇では、「事実に比較して処分が重すぎる。不当な解雇だ」と争われるリスクが残ります。

 そこで経営者は、不本意ながらリスクヘッジとして会社都合退職ということで話をまとめました。

 さらに退職時には被害者と会社を守るために、セクハラの顛末(てんまつ)書と事情を口外しない念書も提出してもらいました。支店長の家族にも何も言わないことにしました。

 経営者は、被害者に詫びたうえで慰謝料を支払いました。慰謝料は本来であれば加害者である支店長が支払うべきものです。ですが加害者が現実に支払うとは限りませんし、被害者は加害者と関わりたくないものです。

 本件では会社がいったん支払って事後的に支店長に求償をしました。実際には、合意のうえで退職金から控除して終わりとなりました。

セクハラ対応における
ポイントとは?

 セクハラにおける失敗の典型は、経営者がいきなり加害者と名指しされたひとを糾弾することです。

 紹介した事案では、ほかの社員の協力もあって解決できました。これは運がよかっただけです。類似事例では「証拠もないのにセクハラと指摘された」として会社が慰謝料請求を受けたこともあります。

 セクハラ事案では、まず事実確認をおこないます。「性的意図はなかった」という加害者の主観は考慮するべきではありません。客観的な事実から判断します。

「助けなければ」と考えるのは組織の長として当然の姿勢です。ですが、責任を追及する前提として事実を確認することは必須です。

 相談を受けたときにすることは、被害者を救済すること。直ちに調査を開始します。調査開始までに時間を要すると、それ自体が調査を怠ったものとして問題行為になります。

 そして事実を慎重に確認すること。被害の申し出があっても鵜呑みにしないことです。「嫌がらせのための自作自演だった」という事案も現実にあります。事実の調査から丁寧に始めるべきです。