特に深刻なのは、トランプが関税を「交渉のカード」として多用している点です。この政策はすでに株式市場の乱高下を引き起こしており、世界経済に予測不可能性と動揺をもたらしています。

 関税の引き上げは、短期的にはアメリカの貿易赤字削減を狙ったものですが、実際には逆効果を招いています。たとえば中国製品に高関税を課すことで、アメリカの小売業者は調達コストが上昇し、それがそのまま消費者価格に転嫁されています。

 特に生活必需品(食品、衣料品、家電など)においては、中低所得者層にとって大きな負担となっています。ウォルマートなどの小売り大手も「大規模な値上げは不可避」と予告しており、インフレ率の上昇が続けば、FRB(アメリカ中央銀行)による金利政策にも影響を及ぼし、景気後退の引き金にもなりかねません。

トランプによる世界経済の混乱が
各国の政治を揺さぶっている

 株式市場ではトランプの発言や政策転換が相次ぐなかで、市場の不安心理が増幅しています。短期的な上昇と下落を繰り返す「高ボラティリティー(変動幅)状態」が慢性化しており、投資の長期的安定性を損なっています。

 高関税政策と物価上昇の連鎖は、消費の停滞、企業業績の悪化、投資の縮小へと波及しています。この影響は金融市場にも現れ、信用不安、企業倒産の増加、最終的にはリーマンショックのような世界的経済危機を招く懸念も否定できません。

 また、経済不安が高まることでポピュリズムや排外主義が再燃し、各国の政治がより内向きかつ不安定になるという「政治不安の連鎖」も警戒されています。

 トランプノミクスとGゼロ世界が同時に進行する今、世界は深刻な秩序の分裂と経済的動揺の危機にさらされています。日本を含む中堅国には、米中に踊らされることなく、地域的連携や民主的価値観の防衛に注力する責任があります。