富裕層・エリート・インテリはトランプ現象について「世も末だ」と言う。じゃあ、真実はどうなのか。
次々と新たなビジネスを仕掛ける稀代の起業家、佐藤航陽氏。数々の成功者に接し、自らの体験も体系化し、「これからどう生きるか?」を徹底的に考察した超・期待作『ゆるストイック』を上梓した。
コロナ後の生き方として重要なキーワードは、「ストイック」と「ゆるさ」。令和のヒーローたち(大谷翔平、井上尚弥、藤井聡太…)は、なぜストイックに自分に向き合い続けるのか。
『ゆるストイック』では、新しい時代に突入しつつある今、「どのように日常を過ごしていくべきか」を言語化し、「私自身が深掘りし、自分なりにスッキリ整理できたプロセスを、読者のみなさんに共有したいと思っています」と語っている。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

富裕層・エリート・インテリはトランプ現象について「世も末だ」と言う。じゃあ、真実はどうなのか?Photo: Adobe Stock

トランプ再選からも見える二極化

 2024年、アメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏が再び大統領に選ばれたというニュースが世界中を駆け巡りました。

 はじめに宣言しておきますが、私はトランプ氏の支持者でもなければアンチでもありません。

 彼の再選は賛否を巻き起こし、特にアメリカの深い分断を象徴する出来事として大いに注目を集めました。

 一見すると、トランプ氏の再選は本連載のテーマである「ゆるストイック」とは無関係に思えます。

 しかし、この現象を深く掘り下げると、現代の社会構造、特に経済や思想の二極化、そして人々が「正しさ」をどのように捉えるのかという視点で、本連載と密接に関連していることが見えてきます

 この問題をどのように理解しているかは、その人が今世界で起きていることへの解像度をはかる「リトマス紙」になっていると言えます

 トランプ現象について、「世も末だ」と言う人と、「彼は救世主だ」と言う人に、おおまかに大別されます。

K字型経済とは

「K字型経済」という二極化の概念があります。

 K字型経済とは、経済全体が上向きに回復しているように見えても、一部の人々は富と機会を得る一方で、別の人々はさらに困窮するという構造です

 このような二極化した状況においては、トランプ氏のように力強く簡潔な言葉で人々の気持ちを代弁する政治家が熱狂的に支持されやすくなります。

 トランプ氏の政治スタイルは、典型的なポピュリズムの要素を備えています

 彼はアメリカ国内の不満・不安を汲み取り、それに対して強い言葉で訴えることで、多くの支持を集めました。

 一般に、困窮している人々が増えると、そうした人々の感情に寄り添う言動を見せる政治家が支持を集める傾向があります。

 さらに、戦争や社会的な混乱、内乱といった不安定な状況下では、力強く断定的に物事を言い切るタイプのリーダーが好まれます

 現在のアメリカや世界全体が、まさにそのような不安と混乱の中にあり、トランプ氏の再選は、そうした時代背景が影響していると考えられます。

 さらに、トランプ氏に敗北したカマラ・ハリス氏の支持基盤を見ても、現在の二極化がいかに深刻であるかがわかります

 ハリス氏を支持する層は主にカリフォルニアやニューヨークといった高学歴・高所得のエリート層に集中しており、州ごとの支持状況からもそれが見て取れます。

 一般的に、富裕層・エリート・インテリとされる人々は、同じような高学歴・高所得層の人々とだけ関わる傾向が強いです

 日常的に自分たちの生活水準に近い人々とだけ交わることで、困窮している人々を理解しづらい弱点があります。

 トランプ氏はこの弱点を見事に突いていました。彼は、富裕層・エリート・インテリとされる人々が「何を認識できてないかを正確に認識できていた」と言えます。

「自分から遠い人」に寄り添う姿勢

 今回の選挙結果は、単なる支持層の違いだけでなく、コロナ禍とその後の金融緩和がもたらした社会的な変化も色濃く反映しています。

 コロナ禍の初期、アメリカ政府は大規模な財政支援を行い、景気を回復させるために大量の資金を市場に供給しました。その結果、市場にお金がじゃぶじゃぶに余って行き場を探してさまようになりました。

 しかし、この金融緩和政策は、想定以上のインフレを引き起こし、物価の急騰が進みました

 株式や不動産などの資産を保有している富裕層は、この過剰な資金が投資市場に流れたことで、資産価値が大幅に上昇し、多くの富を得ることができました。

 アメリカのみならず、先進国では富裕層の数が急増し、富と貧困の格差がますます広がっています

 その一方で、インフレと物価高によって生活が圧迫され、コロナ禍の影響で職を失った中間層・貧困層が増加しています。

 テクノロジー天国であるカリフォルニア州では、ホームレスが至るところに溢れています

 万引きが増えすぎて検挙しきれなくなったので、950ドル以下の万引きは重罪に問わないという措置が取られて、万引き天国となり治安は荒れ放題になっています。

 路面店も万引きが多すぎて成り立たないのでどんどん閉店しています。

「フェンタニル」というドラッグが流行して、道端で麻薬中毒になった人たちがゾンビのようにフラフラと意識を朦朧とさせながら歩いている光景が米国中で見られるようになり、社会問題になっています。

 さらに、急速に進展するAI技術や自動化が、これまで中間層が支えてきた職業を脅かす要因にもなっており、将来的な不安が拡大しています

 こうした格差と不安の拡大が、トランプ氏を支持する層の増加に寄与していることは間違いありません。

 ところが、トランプ氏の支持基盤について、一部の富裕層・エリート・インテリは、「アメリカは落ちぶれた」「トランプ支持者なんて周りで見たことない」といった見方をすることが少なくありません

 こうした見方は、彼らの目に映るトランプ支持者が、自分たちの世界観とは大きく異なると感じるためです。

 しかし、このような見方こそが、トランプ氏の支持基盤をさらに強固にする要因でもあります

 トランプ氏自身は裕福な家庭に生まれ、支持層の多くとは異なる立場にいるものの、彼はこの格差と分断が生む不満の声を巧みに取り込んでいます。

 シンプルで力強い言葉や、キャップをかぶるというスタイル、庶民の感覚に寄り添う姿勢を強調しており、支持者からはその一貫したスタイルに共感が集まっているのです。

 また、トランプ氏の再選という流れを敏感に察知し、彼を支持する立場を表明した一人に起業家のイーロン・マスク氏がいます。マスク氏はテスラとスペースXの創業者であり、世界一の富豪として資本主義経済の頂点に君臨する人物です。

 コロナ禍でも莫大な資産を増やしたマスク氏は、資産を持たない中間層からの不満や怒りの対象になりやすい立場に本来はあるはずです。

 しかし彼は、あえて、トランプ氏を公に支持する立場を取りました。多くの富裕層・エリート・インテリがハリス氏を支持する中で、マスク氏は世の中の流れを敏感に感じ取ってトランプ氏の支持に回りました

 結果的に新政権でも大きな役割を任せられることになり、彼は賭けに勝ったと言えます。

 おそらくマスク氏は、ツイッター(現エックス)を買収して、自身も数億人のフォロワーを抱えるインフルエンサーであるため、他の富裕層・エリート・インテリとは異なり、社会全体の世論を解像度高く把握できていたのだと予想しています。

日本でも着実に進行する二極化

 こうした二極化の問題は、アメリカのみならず日本でも同様に進行している兆候が見られます。

 たとえば、日本でも、都会に住む富裕層と地方に住む中間層との間に明らかな価値観のズレが生じています

 この分断は、富裕層・エリート・インテリが推進する政策が、一般市民にとって実際にはそれほど関心のないものとなっている点に端的に表れています。

 一例として、自民党の総裁選で「ライドシェア」の推進が争点に上がりました。

 東京など大都市の富裕層からは、タクシーがつかまりにくいという不便さが不満の一つとして挙げられており、その解決策としてライドシェアサービスの規制緩和を進めるべきだと主張する声が上がっています。

 特に一部の経営者たちは、タクシー業界の規制緩和によって新しい事業機会が生まれると考え、ライドシェアの推進を日本の政策の重要課題と位置づけています。

 しかし、この議論が興味深いのは、主に都市部で頻繁にタクシーを利用する富裕層と海外観光客が対象であり、地方に住む大多数の国民とは関係がない点です。

 日常的にタクシーを利用する余裕がない人々にとっては、ライドシェアの有無は生活に直接的な影響を及ぼすものではありません。

 大多数の日本人にとっては増税で手取りが減ってしまうことのほうが切実な問題です

 しかし、そのことに裕福な人たちは気づけません。なぜなら、自分たちは困っていないからです

 さらに、こういった富裕層・エリート・インテリは、東京の港区や渋谷区などに拠点を構え、日常的に同じような人たちとだけ交流している人々が多いです。

 こうした「閉じられたコミュニティ」内で生活していると、自分たちの考えている課題は、「日本人全体もきっと課題に感じているはず」という錯覚に陥りがちです。

 そのため、全国的に見れば人々の生活に直結しない政策を日本全体の課題だと誤認してしまい、結果として自分たち以外にはまったく刺さらない話を日本の重要な論点として訴えかけるという、不思議な現象が起きてしまいます。

 彼らは、中間層・貧困層の人々が何に不満を感じ、何に不安を抱えているのか、そして彼らにどのような支援が求められているのかには無頓着です。

 東京の豊かな人々の中では、ライドシェアや解雇規制緩和が盛り上がる一方で、地方では過疎化や産業衰退が進み、多くの日本人がインフレと物価高と増税に苦しみ、将来への不安を抱えながら生活しています。

 このような事実は、都市部に暮らす富裕層には見えづらく、彼らが閉じこもって仲間内で考えている「日本の課題」にはなかなか反映されないのです

 すでに日本でもアメリカと同じことが起きる下地は着々と整いつつあります。

マスメディアとSNSの分断

 こうした中、経済的に豊かではない人々が政治的な疎外感を抱き、不満を募らせる傾向が見られるのは当然の帰結と言えるでしょう。

 富裕層・エリート・インテリの人々に悪意があるわけではなく、彼らは自分たちが見えていること、感じていることが「世の中のすべて」であると純粋に信じているのでしょう

 そのため、自分たちと異なる視点を持つ人々を「おかしな人たち」のように扱ってきました。

 2024年では、兵庫県知事選がメディアで大きな話題を呼びました。テレビや新聞などのマスメディアからパワハラ疑惑で大バッシングを受けて辞任に追いやられた齋藤元彦氏が、SNSでの情報発信が追い風となり知事に再選出されました。

 この話は、先ほどのアメリカ大統領選挙と構造的にはよく似ています。

 マスメディアを信頼している人にとって、齋藤知事を支援する人は、「SNSの発信を鵜呑みにする情弱で愚かな人たち」に映っているでしょう。

 一方で、SNSを信頼している人にとっては、マスメディアを信頼する人は、「古い既得権益に洗脳された思考停止な人たち」に映っているはずです

 これは、マスメディアの影響力が圧倒的だった少し前の時代ではあり得ない現象です。

 良くも悪くもマスメディアとネットの影響力がちょうど拮抗している状態だから起きる論争とも言えるでしょう。

 トランプ現象、兵庫県知事選はまだ入り口にすぎません。まったく同じような分断と摩擦がこれからあらゆる分野、あらゆる地域で起こってくると予想しています。

 私たちが本当に考えないといけないのは、どちらが真実でどちらが嘘かという二元論ではありません

 むしろ、「真実」が消えた世界にどのように適応していくべきかという視点です

 ゆるストイックは、これから日常的に起きる「どちらが真実か論争」に消耗させられず、振り回されず、淡々と自分の目標を達成するためのフォーマットなのです。

佐藤航陽(さとう・かつあき)
株式会社スペースデータ 代表取締役社長
1986年、福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年にIT企業を設立し、代表取締役に就任。ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げ、世界8ヵ国に展開する。2015年に20代で東証マザーズに上場。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業。コロナ禍前にSNSから姿を消し、仮想現実と宇宙開発の専門家になる。今は、宇宙ステーションやロボット開発に携わり、JAXAや国連と協働している。米経済誌「Forbes」の30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30 Under 30 Asia)に選出される。最新刊『ゆるストイック』(ダイヤモンド社)を上梓した。
また、新しくYouTubeチャンネル「佐藤航陽の宇宙会議」https://youtube.com/@ka2aki86 をスタートさせた。