キーはこのときの感激を、当時の流行歌「天国のアナクレオンに捧げる」のメロディーにあわせて詩に書き残した。こうして誕生したのが「星条旗」だった。以下にその1番を引く。

おお、見えるか、朝まだき光を受けて、
すぎし黄昏に、われらいとも誇らかに仰いだものが。
その太き縞と輝ける星の旗は、激しき戦いのさなかも変わらず、
友軍が守る城塞の上に、じつに雄々しくひるがえっていた。
ロケット弾の紅炎も、空を引き裂く砲弾も、
夜を徹してわが旗が、なおあの場所にあった証なのだ。
おお、告げよ、星条旗はいまもひるがえっているか、
自由人の国、勇者のふるさとに。

 最後の問いかけは、自由人の国、勇者のふるさとがいまも存在しているかを確かめるものであり、その象徴として星条旗が掲げられている様子が感動的に描かれている。キーが感じた高揚が、こちらにもありありと伝わってくるようだ。

退屈半分でビデオを見ていた
筆者ですら最後には大感動

 そしてこの感激を、われわれはいまもマクヘンリー砦で追体験することができる。

「星条旗」は1931年、フランクリン・ルーズベルトの時代に、正式に国歌として定められた。この決定により、国歌誕生の地であるこの砦はふたたび注目され、その8年後、「国定記念物および歴史的聖地」(National Monument and Historic Shrine)として特別に復元・保存されることになった。

 米国が誇る国威発揚の拠点とはどんなものだろうか。ボルチモアの中心街から少し距離があるため、車を使って向かった。砦はいまも港を守るかのように、海に突き出た岬の先端に位置していた。

 受付で入場料を支払い、さっそく砦に向かおうとしたところ、職員が「まず映像を見てください」と強くすすめてきた。「星条旗」の歴史は十分予習してきたつもりだったが、ここは現地の習慣にしたがい、ほかの米国人たちと一緒に映像を見ることにした。

 映像の内容はさきに述べたことのほぼ繰り返しだった。米英戦争の勃発、マクヘンリー砦の奮戦、そしてキーの感動。これも知っている、あれも知っていると、まるで答え合わせをしているようだった。15分ほどで映像が終わり、最後に「星条旗」の合唱が流れはじめた。