社内をウロウロと徘徊して
いろんな人の「あ、そういえば」を引き出していく

――特に大企業では、デザイナーと経営層の間に共通言語がなく、コミュニケーションが難しいという声をよく聞きます。エムスリーでは経営層との境界はあまりないのでしょうか。
いや、私もまだ全然同じ言語でしゃべれてないです。経営メンバーとやりとりすると、今も驚きの連続で、学ばないといけないことだらけです。でも、だからこそ「デザインの大事さ」を訴えるより先に、行動することが大事だと思っています。
――どんな行動ですか。
めちゃくちゃ大事にしてるのが「信頼貯金」です。経営層とももちろんですし、エンジニア、事業メンバーなど、縦、横、斜め、どの方向にも信頼をためていく。そして、デザイナーが信頼をためる方法は「作る」ことが分かりやすい。最初は「営業用の資料をきれいに作る」みたいな小さなことでいいんです。
ただ、何もせず待っていても、そういう機会は訪れません。私の場合は、とにかく歩きます。ウロウロとフロアを徘徊する(笑)。で、「暑いっすね」とか「今、どんなことやってるんですか」みたいにいろんな人に声を掛ける。こういう「社内営業」ってすごく大事で、雑談中に相手から「あ、そういえば」ってフレーズが出てきたらチャンスです。
例えば、マーケティング担当者との雑談中に「そういえば、展示会のブースがイケてなくて……」って話になったことがあります。すぐに現場の写真やら図面やらをもらって、デザイナーに渡したら、「こんな感じでどうですか」って、ラフイメージをパパッと描いてくれました。翌日それを見せたらめちゃくちゃ喜ばれて、そこからブースデザインを担当することになりました。そして、それが成果につながれば経営メンバーにも喜ばれる。
――まさに社内営業ですね。
デザインと全然接点がなさそうな部署でも、話を聞くと意外と大きな金額を使ってウェブページとかパンフレットのデザインを外注していたりするんですよ。こういう仕事を社内のデザインチームが引き受ければ、事業にも貢献できるし、ブランディングにもつながります。何より「デザイナーと仕事すると面白いな」って思ってもらえて、デザイナーのファンが増えるんです。
誰かにファンになってほしければ「ファンになって!」と叫ぶより、自分から相手のファンになるのが早い。そのための第一歩は、相手に興味を持つことです。他の職種に興味を持ち、ビジネスに興味を持ち、経営に興味を持つ。経営者や事業リーダーにデザインの大事さを訴える勉強会をやるより、こういう活動を積み重ねた方がずっといいと思っています。