外化(編集部注/思考や感情、知識などの内面的なものを、言葉や行動、作品など、外部に表現すること)されたものに媒介され、いろいろなことを感じ、考えていく中で、自分の作っているものの意味や方向性(創作ビジョン)が明確化され、ひいては自分自身のこともわかってくるわけです。
作り育てているものは、単なるモノにすぎないのではなく、作り育てている私の痕跡です。
作っているものの質を左右する重要な要素の1つが、モノの形で外側に定着した「かつての私」をどれだけ謎(他者)として扱い、そこから問いを受け取ることができるかということなのです。謎との対話は、かつての私との対話なので、趣味は自己対話を生み出しています。
だからこそ、何かを作る、何かを育てるという趣味は、孤独につながるのであり、その中でこそ試行錯誤的に自己対話が生まれ、蓄積されていくのです。
他人の評価のためではなく
自分が納得するまで反復を続ける
もちろん、「何かを作りさえすればいい」という単純な話ではありません。
結局のところ、よりよいものを作ろうとする試行錯誤の連続こそが大切です。興味深いことに、繰り返しや反復の意義は、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」でも語られています。
見通せない状況や急速な環境変化に戸惑いを隠せない主人公の碇シンジに対して、渚カヲルというキャラクターが、「生きていくためには新しいことを始める変化も大切だ」とピアノを一緒に弾くことを提案します。これまでのシンジは、誰かにケアされることなどないまま、他者から重すぎる期待や責務を課されながら、成功し続けなければいけない状況にありました。
その中で営まれたコミュニケーションとは異なり、カヲルに誘われて始めたピアノの連弾は解放的で、お互いを尊重し合うようなやりとりだったのです。
ピアノの連弾に象徴される、互いに気遣いや関心を向け合うようなコミュニケーションを経て、心の緊張がほどけていったシンジは、ピアノをもっとうまく弾きたいと願うようになります。
カヲル:うまく弾く必要はないよ。ただ気持ちのいい音を出せばいい。
シンジ:じゃあ、もっといい音を出したいんだけど、どうすればいい?
カヲル:反復練習さ。同じことを何度も繰り返す。自分がいいなって感じられるまでね。それしかない。