引退して毎日家で過ごすのは気がめいるとします。この飲食店に顔を出すと、店長やスタッフ、常連のお客さんなど若い人たちと会話ができますし、なんとなく頼られる満足感も得られます。それで2万円のお小遣いがあれば妻に内緒で贅沢もできますよね。業務委託でこういった飲食店コンサルタントを始めるのは、ある程度余裕のある高齢者にとってはいい話かもしれません。
わかりやすい例として飲食店を挙げましたが、他にも経理経験者なら経理処理コンサルタントができますし、元保育士の方がお留守番代行業を始めることもできそうです。マンションや商業施設の管理業務や、清掃など、業務委託で請け負うことができそうな隙間仕事は、考えれば考えるほどたくさんありそうです。
場合によっては今後、ウーバーやタイミー、パソナといった企業がこういった領域へ参入する可能性すらあるかもしれません。制度の大幅な変更は新しい需要を生むものです。
これは引退した高齢者の立場でみればいい話ですけれども、マクロ経済で見た場合はアメリカの不法移民によるダンピング(安売り)労働と同じ結果を生みます。行政の実際の対応によっては高齢者が時給600~800円で偽装請負を行うような事例が増えて、そのことによって若い労働者が最低賃金でも仕事を探すことができない未来がやってくる可能性すらあるかもしれません。
さて、話をまとめます。最低賃金の大幅な引き上げは冒頭で申し上げたように、労働者にとっては吉報です。一方で経済学理論に基づくと、そこには3つの副作用が発生します。
それらすべてが悪い方向に動いてしまうと、職場では労働強化や偽装請負が増加して、企業としては安く製品を販売できずに値上げラッシュにつながってしまいます。結果としては、生活の実感として以前よりもずっと暮らしづらいと感じる世の中が生まれるかもしれません。
政府は2020年代の間に最低賃金1500円を目指したいと考えていますが、そのような急激な上昇は必ず「闇」を伴います。くれぐれも副作用には気をつけたほうがいいと私は思います。