コスト面のハードルを
技術の進歩で解決

 そうした中、国土交通省が2015年3月に設置した「交通系ICカードの普及・利便性拡大に向けた検討会」は、地域交通の利便性向上とともにインバウンド対応の重要性を指摘した。訪日外国人旅行者に「交通系ICカード1枚あれば大丈夫」という認識が浸透する中、「10カードの新規導入」または「独自カードとの片利用」で空白地域を埋めようという考えだった。

 検討会が提案した「片利用共通接続システム」は実現しなかったが、独自カードの共通化は避けられない課題となった。新規に独自カード導入を目指す地域だけでなく、既存の独自カードもサーバーの更新タイミング(7年程度)でシステムのあり方を議論しなければならなくなった。

 この流れを受けてJR東日本は2018年9月、「バスの定期券や各種割引等の地域独自サービスと、Suicaエリア等で利用可能な乗車券や電子マネー等のSuicaのサービスを、1枚のカードで利用可能」な「地域連携ICカード」の開発を発表した。

 前述のように独自カードが普及したのは、コストを抑制しつつ地域のニーズに対応するためだったが、コスト面のハードルから片利用すらほとんど実現せず、仮に実現しても独自カードは10カードエリアでは使えない。コストがかかるわりに、「あちらを立てればこちらが立たず」なサービスになってしまった。

 コストの抑制、独自性の発揮、10カードとの共通化、相反する要素を技術の進歩で解決したのが地域連携ICカードである。最大の特徴は、独自カードのネックだった独自のID管理サーバーや中継サーバーを置かず、Suicaシステムの一部としてサービスを提供することだ。

「AOPASS」「AkiCA」「iGUCA」など個別の名称とカードフェイスで独自性を強調するが、カード裏面に記されたIDが、JR東日本発行を示す「JE」から始まるように、システム・機能面ではSuicaである。乗車券、電子マネーとしての利用はもちろん、新幹線利用やJRE POINTの登録など、Suicaの全機能が全国10カードエリアで利用できるため、利便性も向上した。

 通常のSuicaとの違いはICカードそのものにある。FeliCa OSを拡張して記憶容量を分割することで、地域連携ICカードとしてのIDと記憶容量を持たせた「2in1カード」となっており、地域のサービスを提供可能だ。

 こうした仕組みのもと、各社はシステム使用料を支払ってSuicaに新設された地域サーバーを利用する。サーバーの設置・更新など資本コストを省き、システム開発費や運営費をシェアすることで、「高い」と言われがちな交通系ICカードシステムを、より安価、より高品質に提供できるようになったというわけだ。