登美子の自宅は
立派なお屋敷だった
のぶは嵩(北村匠海)と食事をしながら、登美子(松嶋菜々子)のことを想っていた。いつも口が悪い彼女だが、内心は違うのだろうと想像し、追い返したことを後悔し、謝りに行くことにする。
「あのひとそういうの(子どもへの心配)絶対に見せないし、隠すのうまいから」と嵩は慮る。
その話と、鉄子の去り際は重なって見える。女もつらいよ。心で泣きながら、世間のしがらみにがんじがらめになって非情な態度をとらなくてはならない時もあるのだろう。そんな女の悲しみがわかるのはその後だ。
のぶは登美子の自宅を訪ねる。ものすごく大きく立派なお屋敷だった。3人目の夫が遺してくれたもので、この家さえあれば安泰そう。なんなら嵩(北村匠海)とのぶもこの家に引っ越してくればいいではないかと思うが、なぜ登美子はふたりを呼ばないのか。それはさておき。
のぶは登美子にお茶をたててもらいながら、失業したと報告する。
嵩に養ってもらうべきなのに、なぜ、自分が支えようとするのか、登美子にはのぶの気持ちがわからない。のぶは嵩と一緒に探したいもの(逆転しない正義)があるのだとキラキラした瞳で言い、登美子の夢は何か問う。
「あの日に帰ることね」
登美子は清(二宮和也)と嵩と千尋(中沢元紀)の4人で暮らしていた頃が夢のように幸せだったとうっとりと振り返った。清が亡くなりさえしなかったら、登美子はこんなふうにねじれることもなかったのかもしれない。だが残念ながら幸福は儚く消え去り、もう取り返すことはできない。
男性に養ってもらわないと生きられないと思い込んでいる登美子は、離婚と再婚を繰り返し、物理的には豊かでも、心にはぽっかり穴が空いたまま。忘れられない幸福な家庭をずっと惜しみながら生きている。
たぶん、登美子にとってはもうずっと余生なのだ。その深い絶望を登美子は他人に(肉親にも)見せることはない。
