
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第95回(2025年8月8日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
ふいにやってくる
『あんぱん』の変化球
テジマオサムシではなくテジマオサムだった。
いつものカフェで健太郎(高橋文哉)とカレーを食べながら、今日こそ退職届を出すと話をしていた嵩(北村匠海)は、店内に手嶌治虫(眞栄田郷敦)がいることに気づく。
手嶌は編集者(斉藤陽一郎)と打ち合わせをしていた。ちなみに、健太郎の勤務するNHKはこの頃、有楽町にあったので、銀座界隈でランチを嵩とするのは自然な流れである。
第95回で傑作だったのは名前の読み方の問題だ。嵩は「手嶌オサムシ」とばかり思い込んでいたが、オサムだったことが手嶌と編集者との会話の盗み聞きでわかる。大好きな作家の名前を間違えていた衝撃。だが、どうやら世間の人はほとんど「オサムシ」だと思い込んでいるようだ。
実際の手塚治虫もそうだったのだろうか。そういえば筆者の祖母も「オサムシ」と間違えて呼んでいた気がする。
嵩ものぶ(今田美桜)も当たり前に「オサムシ」「オサムシ」と呼んでいて、手塚治虫をモデルにした人物だから、名前も「オサムシ」にしたのかなと視聴者に思わせて、ここへ来て落とす。なかなかにくい展開だった。『あんぱん』はわりと直球勝負しているようで、ふいに変化球が来る。