「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。
この記事では、本書の内容に関するインタビューを掲載します。(構成:小川晶子)
今ひとつパッとしないのは、タイミングが悪いから?
――『人生の経営戦略』の中で解説されている「創造性理論」では、打率を気にするよりも打席の数を増やすことが合理的な戦略だと説明されています。成功するかどうかを気にするより、全部やってみればいいというお話でした。
ただ、仮に学歴や才能があっても、タイミングを間違うとやはり失敗しそうな気もします。タイミングについてはどう考えればいいでしょうか?
山口周氏(以下、山口):個人も組織も、「やっていることはそれほど間違っているわけではないのに、今ひとつパッとしない」場合、タイミングが悪いのが要因であることはあります。
タイミングの問題を考えるにあたって、「キャズム」のコンセプトを使ってみましょう。
次の図は、市場がどのようにして新しい概念や商品を受け入れるかを示したものです。

新しいものに抵抗感の少ない「イノベーター」に受け入れられ、時間をかけて順番に「アーリーアダプター」、「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」と少しずつ保守的な人々へと浸透していきます。この浸透プロセスの初期段階、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間に存在するのが「キャズム」です。ここを超えれば市場が爆発的に拡大するという溝のことで、市場浸透率16%前後のところに存在しています。
キャズム直前のタイミングをとらえて勝負に出た企業や個人は、大きなアドバンテージを得ることができます。
タイミングが早ければいいわけではない
――タイミングが遅くてチャンスを逃してしまうことが多そうですね。
山口:インターネットが爆発的に社会に浸透した1990年代に、インターネット事業を検討した企業は少なくありませんでした。でも、「時期尚早」として判断を保留している間にキャズムを超え、一気に新規参入者が増えてレッドオーシャンになってしまいました。
キャズム前に意思決定できた企業が成功できています。
たとえばソフトバンクの孫正義さんはすごいと思いますね。社運をかけてインターネットビジネスへの参入を決定したのは1995年前後ですが、まだインターネットに対して懐疑的な意見も多かったんです。1996年の時点でインターネットの世帯普及率は3.3%しかないくらいでしたから当然でしょう。とくにコンセンサスを重視する日本企業の中で、この段階で大胆な意思決定をするのは難しいのは確かです。
――すごい嗅覚。一般の人が「これは来そうだ」と思う頃には、もう遅いのでしょうね。
山口:ただ、早ければ早いほどいいというものでもありません。
世界で一番外交がうまいのはおそらくイギリスだと思っているのですが、イギリスの外交戦略は明快で「早く見つけて、遅く動く」ということなんですよ。世界中に情報網を持っていて、今何が起きているのかをいち早くつかむ。でも、すぐには動きません。集めた情報にもとづいて、「こうなったらこれをする」というものを持っておきます。そしてちょうどいいタイミングが来た瞬間に動きます。
多くの人は情報が集まった時点ですぐに動こうとしますが、「遅く動く」のも大事だったりするのです。
兆しをとらえるには
――準備をしていれば、ちょうどいいタイミングに動くことができるわけですよね。今何が起きているのかいち早くつかむにはどうしたらいいのでしょうか。
山口:なかなか難しいのですが、「兆しをとらえる」という意味では「変化率」と「コア人材」に注目することが重要だと言えます。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、ヘッジファンドに勤めていましたが、そこで「インターネットの市場成長率は2300%」というレポートを読んで衝撃を受け、ものすごく焦りながらアマゾンを創業したんです。2300%という変化率、数学で言えば「微分値」に注目して兆しをとらえたのです。もう一つの「コア人材」は、あるジャンルにおいてコアの中核にいる人を指しています。彼らの言動や話題を観察することで、これから先、何がやってくるかを捉えることができるんです。
それから、個人の人生で考えれば、長期的な視点に立つことも大事です。
いいと思うことは全部やってみて、すぐにはパッとしなくても続けていればそのうち良いタイミングが来るかもしれません。短期的に成果が出ないからといって諦めず、トライを続けることが大事なのです。
(※この記事は『人生の経営戦略』を元にした書き下ろしです。)