「気づけば、自分がおいてけぼり」…嵩の背中を押し続けたのぶが、ひとり立ち止まった朝【あんぱん第103回】

再登場のコン太はたまご食堂を作る
それは、あの戦争を忘れない想い

 嵩が帰宅する前にのぶに電話がかかって来ていた。電話に出たときののぶのアップの角度が美しい。電話の主は羽多子(江口のりこ)。

 羽多子もテレビを見ていたのだ。娘たち全員、東京に出して羽多子はひとりで御免与町に住んでいる。孫もずいぶん大きくなっているから羽多子もこの当時だと隠居の頃ではないかと思うし、この時代は『サザエさん』のような三世代同居が当たり前のような印象だけれど、のぶたちに生活費を送ってもらっているのだろうか。

 羽多子はなつかしい人を連れて来ていた。

 コン太(櫻井健人)だ。

 朝ドラあるある、ドラマの終盤になると、懐かしい人たちが再登場する法則がここのところ続々発動している。

 コン太は、千尋(中沢元紀)のラジオを東京に持ってくる手伝い。羽多子がこのラジオはここにあったほうがいいと言う。ラジオ、随分、長持ちだ。

 コン太は朝田家の敷地に食堂を作ると言う。その名は――

「たまご食堂」。

 これもまた、中盤の物語にゆかりあるものだった。

 すぐにピンとくる嵩。戦時中、空腹で、中国人の家に押し入ったとき、女性がゆで卵を恵んでくれた(第58回)。殻ごと頬張ったあのたまごの味が忘れられなくて、いつか恩返しをしたいと思っていた。

 そこで、食堂では困った人が来たら食事を提供したいと考えている。

 戦地でゆで卵を差し出されるエピソードを中園ミホは1年半以上前――第1週を書き始める頃から書きたいと言っていたそうだ。

「日本兵が地元民の民家に押し入ったとき、追い返されるのではなく食料を差し出してくれる。そのとき、日本兵はどう思うのか、それを私は書きたいですと。それだけ中園さんが思い入れたシーンで、役者陣もそれに応えて現場ですばらしい演技をしていました」と倉崎憲チーフプロデューサーはインタビューで語っていた。

『あんぱん』は戦争と切っても切れない物語なのだ。