僕らが大学をつくるにあたり、国内でモデルにしたのはSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)です。実はZEN大学の設立メンバーにはSFCに関わった教職員や卒業生がたくさんいます。ZEN大学設立の隠れテーマは、今の時代にSFCをもう一度オンライン大学としてつくり直したらどうなるかです。

 ZEN大学で重視したいことは実学を教えることです。実学とは、要するに学生が卒業して社会に出たときに間接的に役に立つような教養としての学問ではなく、直接的に役立つような学問ということです。

 なぜこうした課題感を持っているのかというと、日本の教育制度が抱える問題のひとつに、専門学校のような職業に関連した学習をする学校の地位が低すぎることがあって、その状況をなんとかしたいと思うからです。

 大学の目的には、研究をおこない研究者を育成することを重視する研究大学と、職業教育を重視する職業大学の2つがありますが、日本の場合、教育の内容は研究大学なのに、卒業生のほとんどがサラリーマンとして企業などに就職するという、いびつな状況にあります。さらに、職業教育をしている教育機関は、専門学校のように、大学よりも一段下の存在として扱われています。

「実践的なスキル」を
身につける教育を

 たとえば東大や京大にしたって、研究者を養成する研究大学です。しかし、東大や京大を出ても研究者になる人はほんの一握りです。大半はエリートのサラリーマンになる。

 にもかかわらず、大学では、実学を軽視して、研究者のための勉強をさせているのです。

 そして、職業教育をする専門学校は大学より格下に位置づけられていて、エリートのサラリーマンにはなりにくい。こうした実学軽視は、日本の大学教育制度の大きな歪みのひとつだと思います。

 これは日本だけの現象です。アメリカやヨーロッパでは、職業教育の専門学校の地位や教育レベルは非常に高い。むしろそういった専門職に就くためには一流の研究大学を出たって意味がなかったりします。社会からも必要な存在として尊敬されているのです。

 この日本の状況は長年にわたるもので、簡単には変えられないと思っています。大学と専門学校の地位の逆転は、10年、20年では変わりません。じゃあ、大学という制度の中から変えるしかない。

 ZEN大学では、研究者をめざさない大半の学生には、社会に出たときに武器になる実践的なスキルを身につける教育を、積極的に提供するつもりです。