
日本ではいまだに学歴フィルターが根強く残っているものの、ビジネスの現場において「実際に仕事がデキるかどうかは別問題」であることを実感することも多い。それでもなぜ人は、学歴にこだわってしまうのだろうか。組織開発の専門家が企業と労働者のジレンマを解説する。※本稿は、勅使川原真衣『学歴社会は誰のため』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
学歴よりも成功を左右する
「能力」がいくつもあるらしい
学歴ではない成功のカギはこれさ、と言われがちなもの。いろいろと頭には浮かんでいるのではないでしょうか。私で言えば、本田宗一郎氏の言葉にあった「愛」や「協力」「徳」もそうですし、昨今流行した書籍を見ても「成功」のカギ言説の話が浮かんできます。
「多動力」
「1%の努力」
「聞く力」
「美意識」
「リーダーシップ」
「エッセンシャル思考」
「1分で話せ」
……と、各界の著名人が成功の秘訣をおおよそ自分がもっていると自負していそうな特別な「能力」に回収させて、「学歴ではない何か論」を盛り立てる。そう言っても過言ではありません。
「大事なのは、学歴ではない。仕事に不可欠な『能力』をもっていること、そしてそれを磨き続けることだぞ」と誇らしげに(往々にして本人は高い学歴ももっていたりするので悩ましいですが)。
学歴に関するあらゆる言説が「正しいのか?デマなのか?」という問いに盲進する前に、この言説が意図するものと、その背景から垣間見える、人びとにとっての「正義」とは何かを考えてみましょう。慎重に精査したいのですが、私はずばり、この議論がいわゆる「コンピテンシー」と呼ばれる能力研究の系譜だと考えています。