日本でもコンビニエンスストアのローソンが2020年春にPBブランドのリブランディングを行い、パッケージを大幅に変えたところ、「デザインがわかりにくい」とネットを中心に炎上してしまったのは記憶に新しいところです。

 ローソンは既存顧客の離反を防ぐため素早くデザインの修正を決断し、約700品目すべてのパッケージを再改修しました。

 面白いのはこれだけ大騒ぎになったにもかかわらず、実はパッケージリニューアルによる売上の低下はほぼ無かったということで、これはある程度新規の顧客が獲得できたという正の効果と、既存顧客の離反という負の効果が相殺された結果と言えそうです。

 つまり、中にはこのデザインに魅力を感じた新規客も多かったと考えられます。

いいデザインだったのに
なぜ消費者は拒絶したのか?

 これは個人的な印象ですが、トロピカーナの新パッケージは「100%orange」と強調されていてシンプルでモダンな印象があり、ボトルキャップ部分はオレンジの果実風にあしらわれていたりと小洒落れていて、決して悪いデザインとは思えません。

『欲しがる脳』書影『欲しがる脳』(川島隆太、岡田拓也、人見徹、扶桑社)

 ローソンも、発売前に新しいパッケージの消費者調査を実施しており、デザインの評価も高かったといいます。

 一方でトロピカーナは従来のデザインに親しみを持っていた消費者からは新デザインが「ジェネリック製品のようだ」との批判が寄せられ、ローソンもデザインへの批判がネットに溢れかえりました。

 この批判は、本当にデザインそのものの良し悪しからすべて来ているのでしょうか?

 ヒトは処理流暢性(編集部注/情報が脳内で処理される際の容易さや速さ)の低いものに触れて認知負荷が高まると、ネガティブな感情が発生することが知られています。そして、私たちが意思決定の理由を後付けで作ってしまう傾向があります。

 慣れ親しんだブランドが変わってしまったことで認知負荷が高まり、こころに湧いた不快感を、後付けでデザインのせいにした……という仮説はどうでしょう。

 ブランドリニューアルの失敗とはつまり、処理流暢性の悪化から生じた潜在意識のハレーションの産物とも考えることはできないでしょうか。