損を避けようとする脳が
無駄づかいを招く皮肉
人間は利益よりも損失に対して強い反応を示し、同じ価値であれば得る喜びより失う痛みのほうがおよそ2倍も大きい……というような話は、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この行動経済学のプロスペクト理論(編集部注/不確実な状況下では、合理的な判断ができなくなるという理論)の根幹をなす損失回避の心理は、脳内の特定の領域の活動と結びついていることがわかってきました。
損失への恐怖は、脳の原始的な部分、情動を司る島皮質・扁桃体の反応として現れます。島皮質は内臓感覚や痛みの評価に関与し「嫌な予感」に相当する反応を示し、扁桃体は恐怖や警戒心を生み出します。
なんとこれらが経済的な損失額の大きさに応じても活動を高めることが、fMRI(編集部注/脳の反応を画像化する技術)の実験から明らかとなりました。
つまり、損失を感じる状況を脳はあたかも身体的苦痛や危険信号のように感じていたのです。文字通り「損失は痛い」のでした。
街に潜む希少性の演出が
私たちを衝動買いに誘う
消費者としては困った面もある衝動買いですが、マーケター側からするとどんどんと商品を買って欲しい気持ちもあります。
今度はここまでとは逆に、衝動買いをどう作るかを考えてみましょう。
衝動買いは遅い思考(編集部注/ヒトには「速い思考(システム1)と遅い思考(システム2)」の2つのシステムがある。速い思考は、ほとんどエネルギーなく使える直感的で高速なオートマチックシステム。遅い思考は、使うたびにエネルギーを要するけれど、論理的で慎重な判断を下せるマニュアルシステム。ノーベル賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンが提唱した)が働いているときは発生しづらいのがポイントです。ですから売り手としては相手のシビアな遅い思考を回避して、目の前の損失を避けようとする速い思考に前に出てきてもらうこと。これが衝動買いを誘発するセオリーといえそうです。