顔の筋肉も動かないので、一見、無表情に見えるが、母が見舞いを喜んでいるのはわかる。私は母に話しかけ、言葉をおうむ返しに言って、合っているかを確認しながら、彼女のしてほしいことをひとつずつ片付け、最後にベッドに仰向けの母の身体をマッサージした。

40代後半になった娘に
母が心から願った幸せ

 そんな私に、母は呼吸の合間に大切なことを言い残すような感じで、「…いちにち…ごふんの…うんどうを…」と言い出した。

 私が「なになに?1日5分の運動?お母さんの?看護師さんがしてくれるの?」と返すと、「…うんどうをすると…やせるっていう…」とまた続けるので、「ん?痩せる?お母さん、痩せる必要ないじゃん」と明るく切り返すと、「…ほんがあるから、かいなさい」と続けた。

 え、つまり1日5分の運動で痩せるというダイエットの本を買えってこと?
 これには涙が出るほど笑ってしまった。母は、あと数年の命と理解している自分のことより、イキオクレの娘の将来を心配しているのだ。痩せて、いい男を見つけて、結婚してほしいと、心底願っているのだ。

 40代後半になった未婚女も、母にとっては、未来の幸せを願う「娘」なのだった。