「末期腎不全の息子」を救いたい、67歳母親がひと月で“別人”に変貌したワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

高血圧とたんぱく尿が腎移植ドナーの基準に引っかかり、医師から減量を命じられた67歳の母。息子の病状が予断を許さぬなかで一念発起し、大好きだった塩辛いものは控え、朝晩のウォーキングを開始する。果たして、減量は成功し手術を無事迎えられるのか――。※本稿は、『母からもらった腎臓 生体臓器移植を経験した記者が見たこと、考えたこと』(倉岡一樹、毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

母の高血圧とたんぱく尿が
移植の前に立ちはだかる

「起きなさい!もう着くわよ」

 後部座席の母の声で目を覚ますと「聖マリアンナ医科大学病院」の看板がぼんやり視界に入った。2019年3月14日、5回目の移植前診察。体調不良と吐き気で前夜は一睡もできなかった。意識はもうろうとし、私の体は徐々に「タイムアウト」に近づいていた。

 母と初めて腎移植外来を受診した2018年12月6日から3カ月。受けたのは大腸と胃の内視鏡検査だけだ。母も、ほぼ同じようなもので、レシピエント(腎臓の提供を受ける側=私)とドナー(腎臓を提供する側=母)共に体の隅々まで調べ上げるはずの移植前検査にしては少なかった。

 その理由が明らかになる。

「お二人とも大腸の内視鏡検査と胃カメラは問題ありません」。診察室の寺下真帆医師は穏やかに切り出したが……。「ただ、お母さん、何度検査しても尿からたんぱくが出ます。血圧も高いし、体重も重いかな。今のままだと、移植は厳しいかもしれません」

 実は、12月末の3回目の診察で母は高血圧とたんぱく尿を指摘され、その後、血液や尿検査などを繰り返し受けていた。

 母は当時、身長148センチで体重58キロ。血圧も高く、好物の漬物やせんべいなどを断てずにいた。生体ドナーに求められる条件は「健康体」。ドナーはその後、残された一つの腎臓で生きていかなければならないからだ。腎機能は摘出前の6~7割程度に落ちる。

「なんとかならないかしら。私が大丈夫って言っているんだから」

 母は食い下がる。思案顔の寺下医師は、少し間を空けて切り出した。

「術後のことを考えると、今のままでは進められません。うーん……お母さん、ダイエットに挑戦してくれませんか?まずは1キロでいいから。あと、塩辛い物厳禁」

 ダイエット?暮らしぶりを知る私は目を丸くしたが、母は啖呵を切った。

「分かりました。痩せます!」

 移植手術は当面、棚上げになった。帰りの車で、母は「歩いて痩せるわよ。見てらっしゃい!」と鼻息が荒かった。