牽引する3つのグループ
製造業の時代とは違う構造

 QSの調査で注目されるのは、アメリカやイギリスのほかに、ランキング内で香港やシンガポールの大学の比重が高いことだ。上位50校中でシンガポールが5校、香港が2校となっている。これは人口における比率と比べると、著しく高い比率だ。

 また、カナダ(上位100校に5校)、オーストラリア(同7校)の比率もかなり高い。

 こうした姿は、製造業を中心にしていた時代の産業構造のイメージとはかなり違う。製造業時代における大国のヨーロッパ大陸諸国や日本、韓国は、AI分野の教育・研究で立ち遅れていることが分かる。

 教育や研究でAI分野を牽引している国・地域として、次の3つのグループがある。

 第一はアメリカとイギリスだ。

 イギリスは産業革命を実現した国であり、アメリカはそれを引き継いで、製造業の時代に世界を牽引した大国だ。だがこれらの国は、いまや製造業中心の産業構造からITや金融に象徴される新しい時代の産業構造に転換している。QSの調査でもそのことが分かる。

 第二は中国だ。中国は製造業の産業革命を1980年代に実現し、「世界の工場」となったが、その後さらに教育・研究制度を充実し、AIを中心とする産業構造への転換を行おうとしていると評価することができる。

 第三は香港とシンガポール、そしてオーストラリアとカナダだ。これらの国・地域は、製造業の時代でも経済成長したが、さらに新しい形態の経済に向かって進化しつつあることが分かる。

日本や欧州は大学改革が必要
トランプ関税は産業構造転換の障害

 アメリカやイギリス、シンガポールなどの国・地域がAIの時代に向けて大学の教育・研究活動を充実させているのに対して、日本や韓国、ヨーロッパ大陸諸国は、この分野での教育・研究体制の充実が遅れていると考えられる。製造業中心の経済構造や価値観から脱却できていないのではないだろうか。

 現在のままの大学教育・研究が続くとすれば、これらの国は来るべきAIの時代に大きく後れを取ることになるだろう。したがって、これらの国では大学におけるAIの教育・教育の充実は、緊急の課題だ。