なおこれに関して、現在、トランプ政権が進めている関税政策は時代の流れに逆行していることを指摘したい。「MAGA(アメリカを再び偉大に)」を掲げるトランプ大統領は、関税をかけることによって、輸入品の流入を阻止する一方、海外に展開した生産拠点を回帰させることで自動車産業や鉄鋼産業などのアメリカの製造業を再生しようとしている。
しかしアメリカの将来を決めるのは、このような産業ではなくAIといっていい。その分野の発展のために、トランプ政策はかえって障害になるだろう。
アメリカはすでにAIを中心として、新しい方向での経済成長を実現しつつある。かつての製造業の中心地、ラストベルトもそれによって復活している。QSランキングで世界第2位のカーネギー・メロン大学の本部は、ラストベルトの中心地ピッツバーグにある。
U.S.News調査では中国が断トツ
日本の大学は上位100位に入らず
中国のAI研究・教育については、今年3月の本コラム『AI「トップ100大学」中国49校で日本は”ゼロ“、在米トップ研究者の半数も中国出身者』(3月6日付)で、U.S.Newsによる調査(2024年6月)を基に、AI分野での世界大学ランキングを紹介した。
その調査では、上位100位の大学のうち、実に49校が中国の大学という驚くべき結果だった。
上位10校も、第1位が清華大学、第3位が中国科学技術大学など、半分を占めている
AI分野ではアメリカが強いと一般に考えられているが、U.S.Newsの調査では上位10校にアメリカの大学は登場しない。上位10校は全てアジア・オセアニア地域の大学だ。
この結果は、QSのランキングとはかなり違う。特に大きな違いは、U.S.Newsでは中国大学の比率が極めて高くなっているが、QSでは、アメリカの大学の比率が高いことだ。
違いの原因として考えられるのは、第一にU.S.NewsはAIだけを集計しているのに対して、QSはデータサイエンスも含めていることだ。AIとデータサイエンスは重なり合う部分があるものの、厳密には同じではない。中国がAIでは優れているが、データサイエンスで遅れているという可能性は否定できない。
第二は、大学を評価する基準が2つの調査で違う可能性である。このどちらが違いの原因なのかはよく分からない。U.S.Newsは25年6月17日に新しいランキングを発表したが、ここにもアメリカの大学が含まれていないので、直接に比較することができない。
ただU.S.Newsの調査でも、日本の大学は、上位100校中には入っておらず、東大の128位が最高だ。AI教育・研究での日本の立ち遅れは明らかだ。
(注)QS World University Rankings by Subject 2025: Data Science and Artificial Intelligence.
https://www.topuniversities.com/university-subject-rankings/data-science-artificial-intelligence
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)