これはイノベーションを実現するためのアプローチとして実に興味深い差異です。いち早く実現することを目指す場合は、最新鋭の探知装置であるライダーなどを実装させた方が早道です。テレビなどでよく見かけるアメリカの自動運転車の天井には、タクシーの行灯(あんどん)のある場所にくるくると回転する装置がついています。あれがライダーで、人間の目よりも効果的に周囲の状況をデータ化します。

 一方で自動運転の普及期を想定した場合は、高価なライダーやレーダーを使わない、カメラだけで自動運転を実現したシステムのほうが有利です。なにしろそのほうが市販コストは格段に安くなります。

 テスラは2人乗りでハンドルがないロボタクシーを3万ドル(約440万円)で販売する計画です。購入した人が自分で使わないときはロボタクシーを街で走らせて営業できるというコンセプトです。テスラが行っている営業実験では初乗りは4.2ドル(約600円)です。

 ウェイモが実現しているライダーやレーダーを満載したロボタクシーは市販価格が一桁上になるでしょうから、実証実験は成功していても、商業運行で利益を上げるのはまだ先になります。

 後発のテスラの場合は、今のところアメリカの一部の州の一部の都市でしか認可されないでしょうけれども、能力さえ追いつけば、将来的にウェイモを逆転できるとイーロン・マスクは読んでいるのでしょう。

ポイント2:長期的な逆転の布石

 さて、今回の日本での実証実験はロボタクシーではなく、市販のテスラモデル3をベースにした実験車で行われます。

 テスラが目指すフルセルフドライビングは市販車に搭載できることを目指したシステムです。そのこだわりが先述したようなカメラだけを頼りに運転する仕組みです。

 この方式を採用するように提案したのはイーロン・マスク自身だったと言います。会議の場では、「人間だって目だけで運転できているじゃないか」と、前方を向いたカメラだけでの自動運転方式を主張するイーロンに対して、開発責任者は内心、「でも人間は頭をくるくる左右に動かせるんだよね」と思ったけれども反論しなかったそうです。

 まあそのやり取りは笑い話だとして、現在市販されているモデル3には8つのカメラが搭載されていて360度の視野をカバーしています。テスラ方式は安価なコストで人間同様にくるくると周囲を見渡して運転できるような基本設計になっているわけです。