
「生き方や感情は顔つきに表れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第16回は、楠木さん自身も「顔」によって見出された体験をひも解いていきます。
新聞に載った「顔」は
ごまかせない
生命保険会社に定年まで勤め上げた私ですが、50代以降は、会社員と文筆活動を並行する、いわゆるパラレルワーカーでした。本を刊行するときには、楠木新というペンネームを使っていました。社内の周囲の人は執筆活動を知っていましたが、自分からはオープンにしていませんでした。
ところが、定年になる前年に、全国紙に私に対するインタビュー記事が写真付きで大きく掲載されました。朝一番で、同期入社の友人からが電話がありました。
「新聞を見たぞ。本を書いていたのか。知らなかった」
「顔写真で俺だとわかるか?名前は違っているだろ」
「誰でもわかるわ。お前はアホか」
とのやり取りがあって、大笑いになりました。
「顔」というパーツがいかにインパクトがあるのかを、あらためて感じた次第です。執筆した文章では、このような表立った反応は得ることができません。
興味深かったのが、紙面に載った私の顔写真が、さらなるご縁を繋いでくれたことでした。この記事を読んだ中央公論新社の編集者が、私の顔写真を見て「この人とならいい仕事ができそうだ」と直感して連絡をくれたのです。