たとえば、ハンバーガーセットのメニューで、

Aセット:ベーコンバーガー、飲み物 600円
Bセット:ベーコンバーガー、飲み物、ポテト 600円
Cセット:チーズバーガー、飲み物、ポテト 600円

 という3つのものがあったとします。この場合、すべて価格は600円ですから極端回避性は働きません。ここで働くのがおとり効果です。

 AセットはBセットより明らかに魅力的ではありません。つまり、AセットとBセットは、どちらがよいかが簡単に比較できます。しかし、BセットとCセットはどちらがよいのか簡単には判断しにくいでしょう。

おとりやアンカーを仕込んで
売りたい商品を「選ばせる」

 私たちは、簡単に比較できる場合、よりよいものを選びます。Aセットは「おとり」で、Bセットを購入してもらうことを狙っているのです。もし、BセットとCセットだけならCセットを選んだ人も、Aセットが追加されることで、Bセットを選ぶ人が増えるのです。

 さらに類似の特性として、アンカリングがあります。

 アンカーは船の錨のことで、アンカリングは船が錨を下ろしてそこに留まるように、人は最初に目にした数字から離れられず、それを比較対象としてしまうことをいいます。

「通常価格5万円の時計が30パーセントオフ→3万5000円」という表示だと、最初の5万円がアンカーとなり、「3万5000円はお得」と感じてしまいます。

 実際には、3万5000円という価格そのものの水準で判断すべきですが、5万円がアンカーとして参照点になったので、利得を感じてしまうのです。

 高級ブランド品を店頭に並べておくのも、その価格をアンカーにして、店の中にある商品を消費者に安く感じさせるための工夫です。

 このように人間にはさまざまな非合理な特性があり、これらを利用してよりよい行動を促す仕掛けをナッジといい、こういった特性を悪用することをスラッジといいます。

 ナッジは、本人が冷静な時に熟考した結果選ぶ行動を、選びやすいように選択肢の提示の仕方を工夫するものです。あるいは、環境行動のように社会全体にとってよい行動を引き起こすものです。