アマゾンのロゴが映ったスマホ画面Photo:PIXTA

日常の買い物で、アマゾンを一切使わないという人はかなり少数派だろう。便利なサービスを享受する自由な消費者でいるつもりでいるかもしれないが、実はアルゴリズムで欲望を操られ、知らないうちに巨大テック企業が支配する世界に仕える農奴へと成り下がっていることにお気づきだろうか。※本稿は、ヤニス・バルファキス著、関 美和訳『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。

アマゾンがつくった市場は
資本主義ではない!?

「アマゾン・ドットコムの中に足を踏み入れるということは、資本主義の世界から退出するということだ。大量の売買が行われていても、あの場所は市場とは言えない領域だし、デジタル市場でさえない」。私は講義や討論会でよくこのフレーズを口にするのだが、そう言うと、人々は私が気が変になったのかと心配そうな目で見てくる。だが、その意味するところを説明しはじめると、私への懸念が、自分たち全員の不安に変わる。

 SF小説から抜き出したような、次のシーンを想像してほしい。あなたはある街に迷い込む。その街にいるのはガジェットや服や靴、本や音楽やゲームや映画を売買して生計を立てている人ばかりだ。最初はなにもかも普通に思える。しばらくすると、妙なことに気がつく。どの店も、建物もすべて、実はジェフという男のものなのだ。店で売られているものを作る工場を彼は所有しているわけではないが、すべての売上の上前をはねるアルゴリズムを彼が押さえていて、販売できる商品とできない商品を彼が決めている。