これに対し、スラッジは本人が冷静に熟考した場合と異なる選択をさせるもので、本人が後悔したり、本人の満足度を下げたりする結果をもたらすものです。

いつでも解約できるサブスクを
ダラダラと続けてしまう理由

 試供品の配布や各種サービスのサブスクリプションサブスク)は現状維持バイアスを利用したビジネスの手法です。

 試供品を配布するのは、その商品を試してもらうことをきっかけに、その後も使い続けてもらいたいと考えるためですし、いったん契約すると自動的に契約更新されるサブスクも、人はあまり現状を変えたがらないという特性を利用して、契約を自動継続してもらう仕組みです。

 これらの例は、もし本人も新しい製品を使うことを望んでいたり、継続してサービスを使いたいということであれば、それだけなら悪い使い方(スラッジ)とまでは言えません。

 しかし、サブスクを解除するのがとても面倒だったり、契約が自動継続されていることを知らせないというのであれば、スラッジです。

 ダークパターンと呼ばれる、ネット上でユーザーをだまして操作させるようなデザインもスラッジの悪質なものです。

 また、常時その値段なのに「今なら○○円!」と強調した広告や、「今日お金を借りたら、1週間後には△△円返すだけで大丈夫」などとする消費者金融の広告は、現在バイアスを悪用したスラッジといえます。

 もし、冷静で熟考できる時間があればどのような消費行動をしたか、それは消費者本人のためになったのか、という観点で考えると、行動経済学を応用したメッセージですが、ナッジとは言えないでしょう。

「規則を守らない人がいます」は
スラッジになっていて逆効果

 このようなスラッジは最初から行動経済学を悪用するつもりのもので、もちろん問題ですが、実はそれよりずっと多いのが、悪用だと思わず使っている無自覚のスラッジです。

 医者の「□□を控えてください」という表現も、医者はナッジと思っているかもしれませんが、患者に対して健康によい行動を取りたくないと思わせるという意味ではスラッジになっているのです。