また、注意喚起のつもりで「規則を守っていない人がこんなにいます」という表現を私たちはよく使います。
しかし、私たちには社会規範(多数派)に従う特性があるので、この表現は、人々に規則を守っていない人が大勢いて、それが社会規範だと安心させてしまい規則を守らない人を増やしてしまいます。これもスラッジなのです。
現実には「規則を守っている人が7割もいます」と表現する方が、規則を守っていない人にとってプレッシャーになり、規則を守る人を増やす効果があります。
広告では「○○の中でナンバーワンの売れ行き」という表現がよく使われますが、これも社会規範に従う性質を利用したものです。「ナンバーワン」ということは多くの人が購入している人気商品であることを示しており、人はその規範に従いたくなるわけです。
実際、私の著書を見ても、Amazonで広いカテゴリー内に区分され、その中ではあまり上位に上がってこない本よりも、狭いカテゴリーに区分され、比較的少ない選択肢の中で上位にランキングされる本の方がよく売れています。
売れ行きがよいと示されることで人気があると認識され、本を探している人はその規範に従いやすくなると考えられます。
役に立ったらナッジ
がっかりしたらスラッジ
こういったこと自体はスラッジとは言えませんが、たとえばその分野に2種類の商品しかないのに「その分野で1位」と謳った場合は、それが多数派といえるのか微妙です。
また、売上が瞬間風速的に1位になったとして、その一瞬の1位を価値あるものとして打ち出し続けるのは、やはり嘘に近いものとなるでしょう。
そのようにナッジかスラッジかは単純に分けられないところがありますが、本人にとって望ましい行動を促進するのであれば、必ずしもスラッジとはいえません。
本の例でいえば、読者がそれを読んで騙されたと思わず、むしろ役に立ったと思えれば、その宣伝文句はナッジとして作用したことになりますし、読んでがっかりしたらスラッジだったと言えるかもしれません。