戦のカリスマ、酒に求めた解放

謙信も日ごろからストイックな生活や戦をしていただけに、酒を飲むことで心身を解放していた可能性はあると思います。

しかし、体質によっては、過度な飲酒により、心身を壊すことが多々あります。謙信のように糖質を含む日本酒やビール、ワインといった醸造酒を多量に常飲すると、糖尿病のほか、さまざまな病気の原因になりかねません。

「酒は百薬の長」は、もはや過去の話か

適度な飲酒はどんな薬にも勝る効果があるという意味で「酒は百薬の長」ともいわれますが、最近では少量でもアルコールは健康に害を及ぼす可能性があるというエビデンス(科学的根拠)も出てきています

ただし、お酒を通して交流が深まったり、仲がよくなったりすることもありますから、個人的には無理に断酒するより、自分の体質を知ったうえで嗜む程度にするということに尽きると思います。

一杯の過ちが全てを壊す

酒はストレスのはけ口というよりも、人間関係の潤滑油として適量を飲むのがいちばんではないでしょうか。

酒を飲んでとり乱したり、暴言を吐いたり、暴力を振るったりするのはもってのほかなのは、いうまでもありません。ときおり経営者やキャリア官僚など社会的地位がある人が、飲酒によりとり乱して事件を起こしてしまった報道に触れると、考えさせられるものがあります。

自己管理能力の指標となる「アルコール・マネジメント」

戦国の覇者、上杉謙信でさえもコントロールできなかった飲酒という習慣。これは、現代を生きる私たちビジネスパーソンにとって、極めて示唆に富む教訓といえるでしょう。

日々の業務で高いパフォーマンスを求められ、厳しい自己規律を課している人ほど、謙信のように一瞬の解放をアルコールに求めてしまう危険性をはらんでいます。

しかし、ビジネスの世界において、酒との付き合い方は、単なる嗜好の問題ではなく、自己管理能力を測るバロメーターそのものです。

アルコールを適切に管理

重要な商談やプレゼンテーションを翌日に控えながら、深酒をしてしまう。これでは、最高のパフォーマンスを発揮することは到底できません。

「飲みニケーション」が時に有効なのは事実ですが、それに依存せずとも信頼関係を築けるのが真のプロフェッショナルです。アルコールを適切に管理し、常に万全の状態で仕事に臨む姿勢こそが、長期的な信頼を勝ち取る礎となるのです。

キャリアを守る「戦略的休肝日」という自己投資

謙信が最新技術によって一年中、酒を飲める環境にあったことが、逆に彼の命を縮めた一因になったのは皮肉な話です。翻って、私たちは自らの意思で「飲まない日」を選択できます

多忙な日々の中、意識的に設ける「休肝日」は、単なる健康維持のためだけではありません。それは、自身のキャリアを守り、未来の成功を手繰り寄せるための「戦略的自己投資」に他なりません。

アルコールが分解される過程で、身体は想像以上のエネルギーを消費し、睡眠の質も低下します。結果として、翌日の集中力や判断力は鈍り、生産性の低下を招きかねません

ビジネスシーンを勝ち抜くための新たな「兵法」

週に2日、あるいは3日、意識して酒を断ち、その時間を読書や運動、家族との対話といった自己の成長や心身の充実に充てる。この小さな習慣の積み重ねが、ライバルとの間に決定的な差を生み、あなたの市場価値を揺ぎないものにしていくでしょう。

一杯の酒に溺れるのではなく、それを賢く活用し、自らを高める糧とする。それこそが、現代のビジネスシーンを勝ち抜くための新たな「兵法」といえるのではないでしょうか。

※本稿は『リーダーは日本史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。