国民医療費を膨張させる
専門医ごとの縦割り医療
日本には英国のGP(編集部注/国民保健サービスにおける、かかりつけ医のこと)のようにオールマイティな家庭医、一般医はほとんどいない。診療所でも大病院でも臓器別の専門医が縦割り診療をしている。
高齢者は、高血圧と脂質異常症で心臓や腎臓の機能が低下して、認知症で腰や膝も痛いなど複数の疾患を抱えていることが多いので、全部まとめて1人で診てくれる家庭医がいれば効率的だ。
しかし、内科、循環器科、整形外科と診療所もそれぞれの専門分野で分かれているから別々の診療所通いで忙しい高齢者が多いのが実情だ。国民医療費の増加は、そういった無駄から来ているのかどうか検証すべきではないだろうか。
診療所は、病院とは異なり、入院ベッドや検査機器などの設備が何もなくても開業できる。看板に掲げる標榜科は自由に選べるので、病院では手術ばかりやっていた外科医や基礎研究ばかりやっていた医師でも、内科を標榜して開業することができる。
ただ、特に設備を整えなくてもいいから簡単に開業できそうだが、大型スーパーが増え、街から八百屋、魚屋、肉屋、豆腐屋などの個人商店がなくなったところが多いのと同じで、これからは診療所経営も厳しくなるだろう。
何しろ、今の臓器別診療所は、外来に来た患者を診ているだけで、病院の外来と何も変わらない。そこでなければできないことがないのだから、個人の開業医も個人商店と同じ運命をたどるだろう。
数回の訪問で10万円!?
在宅医療制度が患者を殺す
最近、都市部を中心に、どこの医療機関にも属さないフリーランスの医師も増えている。特に東京は、人口も医療機関も多いから、非常勤で複数の医療機関の外来を担当したり夜勤をしたりすれば、大学病院などに勤務するより高額の収入を得られる。
診療経験が少ない医師やフリーランスの医師が、例えば訪問診療医になった場合には、何をしているのか分からないブラックボックスの状態だ。
医療機関の中で何か起こったらほかの医師がフォローできるが、在宅医療ではほかの医師や医療スタッフがフォローしたりチェックしたりすることもできない。