ホルガーさんのモットーは「人間は死ぬために生まれてくる」(“Man wird geboren um zu sterben.”)です。つまり死ぬことは回避できないのだから、「今を楽しむべき」だと言うのです。私は彼の「強さ」をちょっぴりうらやましく感じました。

死は回避できないのだから
「今を楽しむべき」

 ナイーヴかもしれませんが、私自身は「死ぬ前に準備期間がほしい」と考えるタイプです。ある程度の時間があれば、大切な人に会いに行くこともできるし、身辺整理もできるし、「死」に向けてゆっくりと準備ができる……。

 さらに私は決して前向きとは言えない性格で、スケジュール帳などで「12カ月」分のカレンダーを目にすると、「いずれ、このうちの1日が母親の命日になるのだろうな」とか「自分はどの季節のどの日に死ぬことになるんだろう」なんて考えることがあります。

「たぶん、低気圧や寝不足で体調が良くない時に考えるだけだと思うけれど」

 ホルガーさんに話したところ、笑い飛ばされました。

書影『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(サンドラ・ヘフェリン、講談社)

「自分がいつ死ぬかは気にならないし、特に知りたくもない。理想は、観客の前で演奏中、アコーディオンを手にしたまま死ぬこと。盛り上がっている中で死ねたら最高だね」

 日本人のほうがドイツ人よりも「老いること」「死ぬこと」に対して現実的な感覚を持っているのも事実です。火葬場で遺骨を目にしたり、亡くなった後も一回忌、三回忌、七回忌と故人を偲ぶ習慣があるため、日常に「死」が自然に組み込まれていると感じます。

 人の生を祝う「誕生日」が大切にされているドイツでは、慣習的にも「死」よりも「生」に目を向けがちなのかもしれません。

 私もドイツ人なので、こんな言い方はおかしいのかもしれませんが、死ぬことについて「あっけらかんと、カラッとしているドイツ人」も、いいなあと思うのです。