体験視点で考えたら
売る→使う→支えるがまったく違うサービスに
購入時:新しい流通設計と“買いやすさ”のデザイン
購入時のCXにおいても、WHILLは革新的な試みを行っています。既存の電動車いすは、「補装具」「福祉用具」として福祉介護ルートで販売されるのが一般的ですが、それだけでは若年層や美意識の高いシニアには届きにくくなっています。
WHILLは自動車ディーラーや家電量販店との提携や、大手商業施設、主要観光地、空港での一時利用など、モビリティとしての利用機会とともに購買機会を拡張しました。これによって、「医師に勧められて仕方なく買う」のではなく、「自分の意思で、自分らしい一台、自分らしい利用方法を選ぶ」体験を提供しました。
さらに、どの販売チャネルでも一貫したデザインポリシーを貫き、ブランドの信頼感と製品の身近さを高めています。
使用中:プロトタイピングとピボットによる“寄り添う体験”の追求
WHILLの開発は、常にユーザーテストを重視して進められました。初期は、手動車いすに電動ユニットを後付けする方式を検討していましたが、ユーザーテストを繰り返す中で、その仕様では満足のいく体験が得られないと判断。開発チームは早い段階で一体型の電動モビリティへと大きく方向転換しました。
その後も、アームレストの角度や座面の素材、コントローラーの形状など、細部にわたってプロトタイピングを重ね、実際の使用状況を想定しながら設計が磨かれていきました。
開発チームが議論で重きを置いたのは、機能改善だけでなく、「誇りを持って使えるか」「自分らしさを保てるか」といった体験全体の最適化を目指すデザイン視点です。WHILLのCXは、こうした視点によって支えられているのです。
保守・サポート:通信機能と“つながり続ける体験”
WHILLが保守・サポートで重視したのは、「安心感のある体験」を提供することです。従来は対応スピードや部品供給など機能面が重視されがちでしたが、それだけでは「万が一に備えてくれているか」というユーザーの不安を拭えません。
そこでWHILLは、保守を単なる故障対応ではなく、安心を感じられる体験として再設計。Bluetoothやセルラー通信による遠隔操作、モニタリング、ソフトウエア更新、ロードサービスとの連携などを導入しました。これらは機能の羅列ではなく、ユーザーとの“安心の接点”をデザインした結果です。コストや規制の厳しい福祉機器領域にあっても、CXを起点に発想することで、こうした選択が可能になったのです。