デザイナーを起用してCXを事業に取り込む

「乗りたくなる車いす」が生まれた舞台裏、WHILL開発で浮かんだデザインの力と関わり方とはSHU KANNO
346共同代表/日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) 1987年生まれ。桑沢デザイン研究所卒。リコーにてプリンターなどの設計業務に従事した後、電動車いすメーカー、WHILLにてエンジニア兼デザイナーとして初期2製品の事業立ち上げから市場投入までを担当。その後、アクセンチュアにて、製造メーカーを対象とした製造・物流領域の業務改革プロジェクトに参画。同社退社後、デザイン活用に特化したODMメーカー、346を共同創業。現在は、飲料機器、モビリティ、ロボティクスなどのさまざまな業界において、製品の開発製造と新規事業創出の支援に取り組む。受賞歴:グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、Red Dot Design Award: Best of the Best、iF Design Award、全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、ほか。

 WHILLの事例からも明らかなように、CXの向上にはデザインが重要な役割を果たします。では、デザイナーが関わることで事業のさまざまな場面でどんな変化や効果が生まれるのかをご紹介します。

1.事業計画・商品企画にデザイナーを入れる
 事業計画や商品企画の段階からデザイナーを関与させる最大のメリットは、言語化しづらい“ユーザーの感情”や“社会的な意味”を可視化できることです。スケッチやストーリーボードを使えば、誰に・どんな状況で・どんな価値を届けるのかを体験視点で整理できます。こうした可視化は、仮説検証や合意形成だけでなく、新しいニーズや価値提案の発見にもつながります。

 また、ハードウエア開発では、仕様が確定した後の修正は困難であり、ソフトウエアのように後からアップデートするとしたら多大なコストが伴います。そのため、企画の初期からデザイナーが関わることで「体験」を早期に検証し設計に反映することが不可欠となります。
 
2.製品設計にデザイナーを入れる
 製品設計にデザイナーが参画することで、ユーザーの感情や印象といった定性的な評価を見逃さず、設計に反映することができます。

 エンジニアは機能や構造、コストといった合理性を重視しますが、それだけでは「安心感」や「使いたくなる気持ち」といった非機能的な要素が置き去りになりがちです。こうした要素は数値化、定量化がしにくい一方、CXに大きな影響を及ぼす要素であり、製品が継続的に愛されるかどうかさえも決定づけます。デザイナーを起用することで、早期に体験を検証することが可能となります。

3.営業・マーケティングにデザイナーを入れる
 営業やマーケティングのフェーズでは、CXの「伝え方」が重要となります。従来の営業資料やプレゼンテーションでは、機能や価格優位性に偏りがちですが、顧客に本来伝えるべきなのは「使ったときどう感じるか」「どんな変化が得られるか」といったことです。

 デザイナーの可視化やストーリーテリングの技術によって、スペックでは伝わらない魅力を、動画やイラストなどを通じて視覚的・感情的に訴えることができます。これにより、製品が顧客の生活や業務にどうなじむかを具体的に想像させ、提案の説得力が大きく高まります。さらに、デザイナーが企画から設計に関わることで、一貫したストーリーやメッセージによるブランド全体の信頼感を生み出せます。
 
 これまで紹介してきた通り、CXを向上させるために、欠かせないのがデザインの力です。デザインとは単に製品の見た目を整えることではなく、ユーザーを深く理解し、製品やサービスの体験全体をより良くするためのアプローチです。

 デザイナーが持つ「気付く力」「想像する力」「可視化する力」「伝える力」などは、まさにCXの最適化においてこそ真価を発揮します。体験の質を高めるために、そしてビジネス価値の最大化につなげるために――今こそ、デザインを活用したCXに取り組んでみませんか。

公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) https://www.jida.or.jp/
プロフェッショナルなインダストリアルデザインに関する唯一の全国組織。「調査・研究」「セミナー」「体験活動」「資格付与」「ミュージアム」「交流」という6つの事業を通して、プロフェッショナルな能力の向上とインダストリアルデザインの深化充実に貢献しています。