退職代行アンチ派の理由をさらに言うと、最近のタイパ(タイムパフォーマンス)/コスパ(コストパフォーマンス)の話に通じるものがある気がします。タイパやコスパとは本来「かけた時間やコストに対して、どれだけ成果や満足を得られるか」を重視する発想です。そこを誤解して「とにかく時間を切り詰めればいい」「コストを抑えればいい」と効率を優先させすぎると本質的な成長や満足度を犠牲にしてしまう。

 退職代行を使うのも似ている気がする。もちろん無駄な労力は避けるべきだし、お金で時間を買うやり方もあると思うけど、結果としてハッピーなのかな?って疑問に思いますね。

 そもそも基本的に物事って、達成するためのプロセスがある。退職代行はそのプロセスをすっ飛ばして、結果だけを得ようとしている。退職できたいう事実は得られるけど、プロセスを経験することで得られる成長や達成感は残りにくいですよね。退職に至る過程を踏んでいないと、「自分でやり切った」という実感が残らない。

結果だけを得ようとすると長期的には不幸せになる

 プロセスを省いて結果だけを得る手段は世の中にはたくさんあります。でも、それで本当に幸せが得られるかというと疑問だと思っていて。例えば、薬を使ったダイエットは一時的に痩せることはできても、食事や運動などのプロセスがないとリバウンドしたり、逆に健康を損なったりする。結果だけを求めても長期的な幸せにはつながらないんですよね。退職代行もそれに似ているんじゃないかな。

――なるほど……。若くして、そういう考え方になったのは、なぜですか?

 うーん、やっぱり考えることが多かったからかな。もともと知的好奇心は旺盛だったけれど、病気をしたことで、色々と考える機会や時間が圧倒的に多かった。本もめちゃくちゃたくさん読んできました。

 それと中高生のとき、Twitter(現X)を日記みたいに使っていたんです。鍵を掛けたアカウントで、フォロワーは数人だけ。そこに毎日のように、自分の考えをアウトプットしたり、1万字近い長文を投稿していました。

「なぜ夜になると寂しくなるのか」とか、そういうことをひたすら掘り下げる。今日あった出来事を振り返って、その原因を考えて、さらに原体験までたどっていく。例えば、「幼稚園児のとき本当はお母さんと一緒に寝たかったのに病室に行かなきゃいけなかった」とか、そういう記憶にまで行き着くことで、自分なりに考えを整理する。そういう作業を毎日繰り返していたんです。

 同じようなことをしている友達もいて、みんなでありえないくらいの頻度でツイートしてた。思春期が終わって自然にやめていったけど、7年くらいやっていたかな。あれは僕にとって、「思考の筋トレ」でしたね。

退職代行って本当にコスパ良いの?“Z世代代表”岸谷蘭丸が違和感を覚えるワケ岸谷蘭丸(きしたに・らんまる) 実業家・インフルエンサー。2001年7月7日生まれ、東京都出身。幼い頃に小児リウマチを発症しながらも治療を経て回復。中学受験を経て入学した早稲田実業学校中等部卒業後、渡米してニューヨークの高校へ進学。1年で単位を修了してプリンストンの高校に編入。大学受験では米・フォーダム大学に合格するも、浪人をすることを決意。翌年イタリア・ボッコーニ大学に進学。2021年に「柚木蘭丸」としてSNS活動を開始し、2024年に俳優・岸谷五朗、ミュージシャン・岸谷香の長男であることを公表。本名での活動に切り替え、TBS『Nスタ』や『ABEMA Prime』などでコメンテーターを務める。2023年には友人とともに海外大学受験支援サービス「MMBH留学」を設立し、英語指導や出願支援を展開、教育事業にも注力している。 Photo by Shogo Murakami