コーンマーケット・ストリートとセント・ジャイルズを胴体とすると、その北で二手に分かれるウッドストック・ロードとバンベリー・ロードが両脚、ハイ・ストリートとクイーン・ストリート(及びその先のュー・ロードとパーク・エンド・ストリート)がそれぞれ右腕と左腕、そしてセント・オールデイツを細い首に見立てればクライスト・チャーチとペンブルク・コレッジのあたりが頭脳ということになる。
グリーン自身はベイリオル・コレッジの出身で、在学中には自ら編集する文芸雑誌に詩や評論を書いたり、共産党に入党して政治活動に携わったり、さらにはドイツのスパイとしてフランスに渡ったりと、凡人の想像を遥かに超えた学生生活を送っていた。ロシアン・ルーレットを試みたこともあるらしい。
『不思議の国のアリス』の
モデルとなった少女
ルイス・キャロル(1832~98。本名チャールズ・ラトウィジ・ドドソン)の『不思議の国のアリス』(1865)は主人公アリスが姉と川辺で静かな午後の時間を過ごしている場面から始まる。
このアリスは19世紀中頃のオクスフォードに実在した少女アリス・リドルをモデルに創造された。当時ドドソンはオクスフォード大学で最も有名なコレッジのひとつであるクライスト・チャーチの特別研究員・講師であり(専攻は数学・論理学)、アリスはクライスト・チャーチの学寮長ヘンリー・リドルの次女だ。
『不思議の国のアリス』の冒頭の場面は、おそらくクライスト・チャーチの近くを流れるチャーウェル川の支流を念頭に置いて描かれている。この物語はドドソンがリドル家の3姉妹を連れてテムズ川(オクスフォード界隈ではアイシス川と呼ばれる)で舟遊びをした際に、3人(特にアリス)にせがまれて彼女を主人公にした荒唐無稽な話を即興で語り聞かせたことに始まった。この舟遊びは1862年7月4日のことで、この時彼らは約3マイル上流のゴッドストウまで行った。
ここにはゴッドストウ・ナナリー(女子修道院)の廃墟と水門、それに〈トラウト・イン〉というパブがある。またクライスト・チャーチの正門の斜向いには当時アリスらが菓子を買いに行っていた萬屋があり(『鏡の国のアリス』の「羊の店」のモデル)、現在は〈アリスの店〉というキャラクターグッズなどを売る店になっている。『不思議の国のアリス』が創られた頃のドドソンとアリスの実話を映画化したのが『ドリームチャイルド』(1985)である。