『ライオンと魔女』に始まる全7巻の長編ファンタジー『ナルニア国物語』の作者C・S・ルイス(1898~1963)はモードリン(Magdalen)・コレッジの研究員・講師(専門は中世・ルネサンス期の英文学)として生涯の大半を過ごし、毎週火曜日の午前中にセント・ジャイルズ通りにあるパブ〈イーグル&チャイルド〉で文学サークル〈インクリングズ〉の会合を開いていた。
ここに集ったルイスの文学仲間の中には『ホビット』、『指輪物語』の作者でオクスフォード大学の教授でもあったJ・R・R・トルキーン(1892~1973)、オクスフォード大学出版局の要職にあった詩人・小説家チャールズ・ウィリアムズ(1886~1945)らがいた。彼ら(や街の人々)はこのパブを〈バード&ベイビー〉と呼んでいた(今もそう呼ばれる)。店内に彼らの写真や物語の挿絵などが飾られている。
映画『シャドウランズ』に
隠された秘話とは
ハイ・ストリートを東に向かいユニヴァーシティ・コレッジを過ぎたところに〈イーストゲイト・ホテル〉がある。ここはルイスがトルキーンと頻繁に食事に訪れたところであり、米国の女流詩人ジョイ・デイヴィッドマンと初めて会った場所でもある。
夫と離婚して息子を連れ英国に渡って来たジョイは帰化を希望するが永住権が得られず、同情したルイス(当時50代後半で独身)はジョイとその子供に永住権を与えるために彼女と「書類の上で」結婚する。
やがてジョイは骨髄癌のため残り3か月の命と宣告され、この頃2人の間には書類上の夫婦関係だけでなく自然な愛情が芽生える。ルイスの献身的な看病のためもあって、ジョイはそれから4年近く生き延びた。
と、ここまで読んで、この話をどこかで知っていると思った人は映画『シャドウランズ(永遠の愛に生きて)』を観た人であろう。この映画でルイスを演じていたのはアンソニー・ホプキンズだった。イーストゲイト・ホテルで会う場面はセント・ジャイルズの〈ランドルフ・ホテル〉で撮影された。