そもそも夏期講習や
夏期合宿にどういう意味があるのか

 中学受験における夏期講習の目的は、単純に学力を上げることだけではありません。現代では、体力と心を鍛えるという面も重要な目的の一つです。午後2時から講習が始まる場合、猛暑の中、しかも一日で最も暑い時間帯に電車に乗って通塾し、そこから6〜7時間勉強するのです。それ自体、子どもにとっては大変な試練です。

 塾にいて、毎日教材に取り組んだということ自体が成功です。教材の内容を思ったほど消化できなかったと感じても、それが本当に消化できたかできていないかはその時点では分からないものです。焦る必要はありません。

 また、「夏休みのうちに苦手なジャンルをすべて潰しておきたい」という目標を立てる保護者も多いのですが、潰しきれなくても構いません。確かに二学期にそれは「借金」として残ってしまいますが、二学期に対処すればよいのです。

 今年、ある塾の長期合宿が話題になりました。高額な参加費もさることながら、そのように長期的な拘束が子どもに悪影響を与えるのではないかとの議論もありました。夏休みには夏期講習だけでなく、合宿までする必要があるのでしょうか。

 学力向上だけに焦点を絞れば、この長期合宿に限らず、あらゆる塾の「合宿」は必要ないと考えます。毎日決められた時間、通塾して勉強するだけで十分です。夏期講習で十分ということです。しかし、学力向上のために必要な心を鍛える、勉強環境を整えるという観点では合宿にも意味があります。

 現在のようにタブレットやスマートフォンの誘惑が溢れる環境では、それらを排除できない子どもが一定数存在するのは事実です。環境を変えることで伸びる可能性のある子どもたちにとって、合宿はその環境を提供する場となります。

 頑張る習慣がない子どもたちには、強制的にゲーム機器やタブレットやスマートフォンから離れる、このような機会が必要なのです。

 これはスポーツの世界を考えても容易に納得がいく話だと思います。単純に練習するだけなら部活の合宿は必要ありません。それでもなぜ合宿を行うのでしょうか。チームワークの向上や人間関係の構築でしょうか。もちろんそうした意味合いも、まったくゼロというわけではないでしょう。

 しかし、それぞれにプライドを持ち、独立し、億円単位の年俸をもらうプロスポーツ選手でさえもシーズン前には必ず2週間程度のキャンプを行います。それは、プロであっても、シーズン前に体を作る際には「自分を追い込む」時期が必要だからということに尽きます。日常とは環境を変えて2〜3週間集中することで、自分に「スイッチを入れる」のです。

 子どもたちにとって学期中の通塾とは異なる集中学習の場である夏期講習や合宿は、まさにこのキャンプのような位置づけです。夏休みは、追い込まなければならない時期であり、その際に追い込むものは技術面(ここでは教科の成績向上)だけではありません。講習を頑張ったという達成感や、そのことで得られる自信こそが講習の重要な要素なのです。

 ただし、過度に厳しい合宿や講習は逆効果になる可能性もあるため、バランスが重要です。このように考えると、がんばる習慣がない子に強制的に習慣をつけさせる機会として、また追い込むための機会として、夏期講習や合宿には一定の意味があると言えるでしょう。