appleなんて中1の最初にやるような単語なのに、なぜそれほど念入りに確認しなければならないのか?いや、しかし、自分は絶対にappleのスペルを忘れないと言えるだろうか?こいつはもしかすると、私たちが調子に乗って応用問題を解きまくっているうちに「真の基礎固め」を済ませ、後で一気にマクってくるつもりなのでは?
そうして私たちは永森を内心恐れながらも馬鹿にする日々を過ごした。永森は休み時間によく自習しており、家でも夜中まで勉強していたようで、授業中に寝ていることも多く先生に怒られまくっていた。
授業中は爆睡して
模試では産近甲龍E判定
その姿からは、完全に高校の勉強を無視していることが読み取れた。私は、もしかすると永森はこの高校の指導方針に見切りをつけ、自分で開発した受験術に則って東大を攻略しようとしているのではないか、と疑いもしたのだった。
ある日、永森は授業中に寝すぎてあまりに怒られるので、眠気覚ましドリンクの「眠眠打破」を買ってきて教室で飲んでいた。その直後、私たちはまたも驚嘆させられた。
なんと、永森は眠眠打破の空瓶とキャップを机の上に置いたまま、授業中に大いびきをかいて眠り始めたのである。これには私たちも笑うしかなかった。
しかし、眠眠打破をみんなの前で豪快に飲み干し、その空瓶を隠そうともせずその10分後に寝るなんて恥ずかしい真似が、一体他の誰にできるだろうか?
この時もまた、私は永森という人間の放つ得体のしれない大物感に恐れを抱いたのだった。
しかしながら、永森の成績の方は一向にゴレンジャイだった。あまりにも成績がヤバいため、永森のオカンが学校にやってきて「特進から一般にコースを変えてほしい」と頼み込みに来たこともあったらしい(ちなみに却下された)。
そのまま高3の終盤になってもゴレンジャイだったので、私たちもさすがにもうあきらめるだろうと思っていたが、永森は力のこもった目で「東大文1」と言い続けた。