
ビール大手4社の一角であるサントリーホールディングスの新浪剛史会長が9月1日付で辞任した。同氏は、国内で違法性が疑われるサプリメントの入手に関連して、警察の捜査を受けていた。経済同友会の現役の代表幹事であり、長年に渡り経済財政諮問会議の民間議員を務めてきた政財界の“顔”だった人物の、衝撃的な表舞台から退場に、動揺が広がっている。(ダイヤモンド編集部 片田江康男、下本菜実)
違法性疑われるサプリ購入で家宅捜索
9月1日付「一身上の理由」で辞任
「捜査の結果は別として、サプリメントに関する認識を欠いた新浪氏の行為は、当社会長としての要職に堪えないと判断した」
サントリーホールディングス(HD)は、9月1日付で会長の新浪剛史氏が辞任したと発表。その説明を行った記者会見の席上、鳥井信宏社長はその理由についてこう説明した。
新浪氏はサントリーHDの会長のほか、経済団体である経済同友会の代表幹事を23年度から務めている。さらに14年からは、内閣総理大臣が議長を務める経済財政諮問会議の民間議員として、積極的に規制緩和や政策について発言してきた。
そんな政財界の有名人が突如辞任するとなれば、ただでさえ飲料や食品などの関連業界には衝撃を与えるが、今回その衝撃が輪をかけて大きくなったのは、その理由と経緯だ。
サントリーHDによると、8月21日の深夜、新浪氏から同社執行役員へ電話で「サプリメントの件で疑義を受けている」という一報が入った。さらにその翌日の昼ごろ、同じく新浪氏から「警察の捜査を受けた」という連絡を受けたという。
新浪氏本人は適法であると認識していたというが、国内では違法性が疑われるサプリメントを海外から購入しており、実際、8月22日には福岡県警が新浪氏の都内自宅を捜索していた。同日、その事実が鳥井社長ほかサントリーHD幹部に報告され、外部弁護士による新浪氏へのヒアリングを実施。その後、26日に取締役会を開催し、28日には新浪氏を除く全取締役・全監査役による議論の末、新浪氏に辞任を求めることが決まった。
そして9月1日、鳥井社長が佐治信忠会長からの指示を受けて、新浪氏に直接、辞任について協議。新浪氏から「一身上の理由」による辞任届の申し出を引き出すに至った。
サントリーHDといえば、国内でも有数のサプリメントメーカーだ。その企業の現役会長がサプリメントの購入について警察の捜査を受けたとなれば、同社としては黙って見過ごすわけにはいかないだろう。辞任を求める流れは当然の帰結だったともいえる。
現役会長の家宅捜索という前代未聞の事態を受けたサントリーHDは、社員の動揺を抑えるのに必死だ。次ページでは、記者会見中に社員向けに発信された鳥井社長のメッセージ内容とともに、新浪氏がこれまで、経営者・財界人としての残した足跡を振り返る。