プロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」や決済サービス「PayPay」を立ち上げた事業家、小澤隆生氏。2025年2月に発売した書籍『小澤隆生 凡人の事業論』では、自らの経験を基に構築した事業立ち上げ論を豊富な体験を基に語っている。そんな小澤氏が今年5月、コンサルティング会社「ブーストコンサルティング」を創業した。人工知能(AI)をフル活用したシステム開発を中心に、新規事業の立ち上げやM&A(合併・買収)などを支援し、昨年設立したベンチャーキャピタル(VC)「ブーストキャピタル」の子会社にあたるという。ベンチャーキャピタルの傘下に事業会社を設立するケースはとても珍しいそうだ。今回は、「凡人の事業論・番外編」として、小澤氏にコンサルティング会社設立の狙いを聞いた。(後編=聞き手は蛯谷 敏)

――ここまでのインタビューでは小澤さんにAIをフル活用したコンサルティング会社を創業した理由について伺ってきました(インタビュー前編「『事業のヒリヒリ感をまた味わいたい』小澤隆生、VCの常識を覆す新会社設立に挑んだワケ」、インタビュー中編「【ヤフー・メルカリ・LINE出身者が集結】AIで会社はこう変わる! コンサル起業家・小澤隆生氏の勝算」)。AI時代になって、小澤さんの構築した事業立ち上げのフレームワークはどう変わりましたか?
小澤氏(以下、小澤):情報集めの部分で言えば、リサーチが劇的に楽になりました。もう、アルバイトの学生とかにわざわざお願いしなくてもいいというのはあります。だから、今は、思いついたことはなんでもまず生成AIに聞いてきます。
生成AIのリサーチ力を重宝
小澤:生成AIのいいところって網羅性なんですよ。ヒアリング項目を作るときにも使えるので、質問の網羅性は圧倒的に改善しました。やっぱり自分が知っていることや、知りたいことにはバイアスがかかっていることが多いので、角度がついてしまうんですね。
本来は360度、まんべんなく聞くべきなのに、90度ぐらいの角度でしか話が聞けていない。それだと、もったいないじゃないですか。だから、生成AIを使って漏れなく270度分を補っているイメージです。この点では最高にいいツールですよね。
だから、事前情報を得る作業は随分と楽になりました。その時間が短縮できた分、仮説づくりに着手するタイミングが早くなりました。
仮説作りは「まだまだ」
――仮説づくりにも生成AIは活用できますか?
小澤:現段階ではまだまだですね。仮説が普通の域を出てこないんですよ。例えば、「コンサルティング事業におけるセンターピンって何?」を聞くと、答えが猛烈に一般的なんですよ(笑)。 悪くはないんだけど、この点ではまだ使えないですね。
なので、現状は生成AIで得たリサーチ結果を自分なりに咀嚼して、「こうかなぁ」という仮説を自分で作って、そこからさらにAIで調査をかけるという作業を繰り返しています。「こうやって思ってるんだけど、こういう考えに基づいてやってる会社やサービスがあるのか」といった聞き方ですね。あとの残りは、実際に人に会ってヒアリングを重ねていくことで検証していく感じですね。
――AI時代でもコミュニケーションは不可欠なスキルになりそうですね。
小澤:生成AIは現状、オープン情報を紡いでいるだけですからね。やっぱり本当に人がどう考えているかは、実際に会って話を聞かないとダメですよ。表面的なものをなぞっても絶対そのサービスに対する勝ち筋は見つからないということでもありますね。