ちゃんと報告しているのに、忘れている
「次に仕えた上司には、そういった嫌らしさはないんです。でも記憶が悪いんです」
――嫌らしさはないけど、記憶が悪い。
「そうなんです。責任逃れのためにシラを切ってる、っていう感じじゃなくて、ほんとに自分が言ったことを忘れてるんです。たとえば、ちゃんと報告しているのに、問題が生じると、『そんなこと聞いてないぞ』なんて言うんです。それも、本気でそう思ってるんです」
――それはまた困りますね。
「ほんと困りましたよ。いくら報告や相談をしたときのやり取りを具体的に説明しても、全然思い出してくれないんです。記憶力が悪いんだから、まあ仕方がないと諦めました。というのも、その前の上司みたいな保身でとぼけてる、って感じじゃなかったので」
――なるほど、保身による嫌らしさは、まったくみられなかったんですね。
「全然そういう感じじゃなかったですね。すごく率直な人柄で。ところが、まったく理解不能なのが今の上司なんです。保身による嫌らしさもなければ、記憶の悪さもない。人柄的に信頼できるし、仕事もできて、尊敬できる。それなのに、たまに言うことが180度変わってしまい、そのことを指摘してもわかってもらえないんです。『自分は最初からこう言ってたはずだが』って言い張るんです」
――そうですか。保身的でもなく、記憶力が悪いわけでもないのに、自分の意見が180度変わってることに気づいてくれない。ずるさも記憶力の悪さもないのに、この豹変をどう理解したらよいのかわからず困惑してる、ということですかね。
「まさに、そういう感じです。いったいどうなってるんだろう、この人の頭の中は、って思ってしまうんです。まったく理解不能で……」
なぜ、自覚なしに言うことが180度変わるのか
保身的な上司が「そんなことは言ってない」「そのような指示をした覚えはない」などと、とぼけて責任逃れをするのは、ずるくて嫌らしいけど、その心理メカニズムは理解できる。
あるいは、記憶力の悪い上司が、ほんとうに自分の言ったことを忘れてしまい、「そんなことは言ってない」「そのような指示をした覚えはない」などと言うのも、困ったことだが、それは記憶力の弱点によるものとして理解はできる。
しかし、そういったずるさや記憶力の弱点が見られないのに、「そんなことは言ってない」「そのような指示をした覚えはない」などと言い切る上司の頭の中は、いったいどうなっているのか、どうにも理解に苦しむ、というわけだ。それはもっともなことである。