4年前の自分の支持政党を間違って記憶している人びと
保身のためでもなく、記憶力が悪いためでもないのに、なぜか記憶が変わってしまう人物の頭の中はどうなっているのか、という問題に直面して浮上するのが、本人の自覚なしに記憶が変わってしまう心理である。
新刊『なぜあの人は同じミスを何度もするのか』では、「記憶は今を映し出す」ということを指摘しているが、今回の問題はそれに沿って解釈することができる。
そこで、過去の出来事についての記憶が、現在の自分の意見に合致するように変容しがちであることを確認しておきたい。
たとえば、4年ごとに実施されるアメリカ大統領選挙の際に、ある調査が実施された。それは、現在の支持政党を答えてもらうと同時に、4年前の支持政党も答えてもらう、という調査である。
その結果、実際は4年前と支持政党が変わった人のうち、なんと9割以上が4年前も同じ政党を支持していたと答えたのだ。これはまさに現在の自分の意見に合致する方向に記憶が変容することの証拠と言える。
支持政党を変えた人たちも、記憶の中では自分の支持政党は変わっていない。自分は一貫していると思いたいという欲求が、このような記憶の変容を生み出すのであろう。
心理学者のマクファーランドとロスは、自分の恋人に対して以前はどう思っていたかを尋ねると、その相手に対する現在の印象の方向に想起が歪むことを確認している。
また、心理学者のゲーサルスとレックマンは、討論前に意見を尋ねておき、グループ討論の後に意見を尋ね、さらに討論前に自分はどのように答えたかを思い出してもらう、という実験を行っている。
その結果、討論後の今の自分の意見に近い方向に討論前の自分の意見の想起が歪むことが示された。つまり、討論前には今と違う意見だった人も、討論後に思い出してもらうと、討論後の今の意見に近い考えをもっていたと信じていたのである。
このように、記憶には、思い出すときの自分の心理状態や考えていることと矛盾しないように変容しやすい、といった性質がある。このことは心理学のさまざまな研究によって確認されている。