
辛口・蘭子が「おしつけがましい」
東海林がのぶとつもる話をしているとき、嵩はキューリオで読者投稿の詩を選んでいた。蘭子(河合優実)や粕谷(田中俊介)たちも手伝っているが、嵩はどの詩もすばらしく決められない。
八木(妻夫木聡)は嵩がほかのことで悩んでいることに気づいた。嵩は『アンパンマン』が評価されないことを気に病んでいた。やなせたかしの史実的には、先述した『アンパンマン』が掲載された『十二の真珠』も評価されなかったから、もやもやしていたのであろう。
なんでそんなに評価されないのか、蘭子や粕谷たちも考える。
「スマートじゃなくておしつけがましいというか」と蘭子は辛口批評をする。嵩がぼそっと「おしつけがましい」と繰り返すところに彼の物悲しさが伝わってきた。
メルヘンのなかにそっと込めたはずのメッセージ性が案外、前面に出ていて、鼻につくということだろうか。確かに、『十二の真珠』の12作は社会批判だらけだ。大人が読むには、メルヘン部分がスイーツで、子どもが読むには、批評性が楽しめない。どちらにも振り切れていないのかもしれない。
『アンパンマン』のなかで筆者がおもしろいと思ったのは、「世界まんが主人公かいぎ」のくだり。
各国のヒーローが集まってアンパンマンをにせもの呼ばわりする。ここに、漫画家世界旅行に誘われなかったやなせの忸怩(じくじ)たる思いを感じるのは気のせいだろうか。要するに、力の強いものが徒党を成して誰かを仲間外れにしたり弱いものいじめをしたりすることが、やなせたかしはとてもいやなのではないだろうか。
アンパンマンがどうしたら人気が出るか考えているところに、のぶから電話が。東海林が来ていると聞いて嵩は慌てて帰宅する。
短い間ながら嵩も東海林に会うことができた。
「おまえらはついに見つけたにゃ 逆転せんもんを」
「おまんらが長い時間かけて見つけたもんは間違っちゃあせん。俺が責任を持つ」
嬉しい再会にもかかわらず、「ほいたらにゃ〜」と帰っていく東海林の後ろ姿があまりにも力なく、心配でならない。