
韓国・ソウルで暮らす30代女性は「自分ひとり生きるのが精一杯。子どもまで背負う余裕はありません」と語った。韓国では、結婚や出産を「負担」として捉える若者が増えているという。朝日新聞の稲田清英記者が、若者たちの本音に耳を傾ける。※本稿は、朝日新聞国際報道部『縮む韓国 苦悩のゆくえ 超少子高齢化、移民、一極集中』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
子どもを持つことは「喜び」よりも
経済的な「負担」が大きい
2024年1月、記者(稲田清英)は地下鉄に乗り、ソウル市内で開かれていた懇談会の取材に向かった。
この懇談会を主催したのは韓国政府だった。少子化が大きな社会課題になって久しい中で、政策の検討に生かすために結婚や子育てをめぐる状況を市民から幅広く聞き取ろうと、23年末以降、何度か開かれていた。
懇談会は各回、「子どもが2人以上いる親」「未婚の若い世帯」などと対象者を分けて開かれていた。ほかの回も取材したが、この日は「子ども1人を育てる親」が対象だった。
集まった市民からは、子育ての悩みや政府に求めること、支援制度に関する質問など活発な発言が続いた。
ソウルに住む小学校教員の男性(31)は、同じ教員の妻と2歳の娘を育てている。こんな発言が印象的だった。
「自分の周りの友人の中でも、子どものいる人がいません。子どもを持つことが『喜び』ということよりも、『お金がとてもかかり、大変な存在だ』という考えと結びつくように変わっているようです」
記者は韓国の少子化に関連する取材を、2000年代後半から断続的に続けてきた。