女性にとって、結婚や出産を考えない最大の理由は、「経済的なもの」。結婚式から始まって、住宅費など様々に必要なお金を確保しようとすれば、まずその時点で大変なストレスとなる。そもそも、そこまでして「幸せになれるかどうかが疑問」なのだ、という。
子どもについても聞いてみた。女性からは、こんな答えが返ってきた。
「子どもというのは1つの生命ですよね。私だけでも生きていくことが大変なのに、とても子どもにまで責任を負えそうにありません」
韓国の子育ては、その後の人生を大きく左右する大学入試を見すえた塾代などの教育費を始め何かとお金がかかる。とともに、「どんな塾に通っている」「どんな持ち物を持っている」などと常に他の家庭との比較にさらされがちな傾向にもある。比較されても恥ずかしくないものを子どもに与えてあげる自信がない、と女性は淡々と語った。
「もし、子どもが残念な表情をしたら、私も申し訳なくなってしまうでしょう」
女性はソウルに数店舗を展開する飲食店で、接客などを担当する社員として働いている。収入は大企業並みとはいかないものの、1人での生活に不自由しない程度にはある。
女性は今の1人での生活が快適だといい、まずは仕事をしっかり頑張りたいと話をしてくれた。「今後は店長を任せてもらえるようになることが目標です」と。
年収550万円でも子育てを
あきらめざるを得ない韓国の現実
2人の話を聞き、記者は最初にソウルに特派員として駐在していた10年あまり前に聞いた、当時35歳の会社員の言葉を思い出していた。
「子どもを持つ予定ですか?ゼロパーセントですね」
記者ともほぼ同世代の男性はその4年前に結婚しており、IT関連企業で働いていた。前の勤務先の経営が悪化したことで転職した職場だった。
年収は当時5千万ウォン(約550万円)ほどあり、生活には困っていなかったが、先の保証など何もない、とも強く感じていた。住宅価格の高騰もそうだし、男性の脳裏にはまだ当時、発生から間もなかったリーマン・ショックによる混乱の記憶も鮮明だった。
男性はこうも言った。
「韓国は階級社会です。公務員なら別ですが、自分が子どもを幸せにする自信はありません」
これも印象的な言葉だった。そして今も、そうした若い世代に「あきらめ」を抱かせるような状況は大きくは変わっていないと言える。