自国の「生きづらさ」を自虐的に表現する「ヘル朝鮮」、恋愛、結婚、出産を放棄せざるを得ない若者を指す「3放世代」、マイホームなども含めたあらゆる希望をあきらめる「N放世代」といった言葉も次々と生まれてきた。
こうした絶望とも諦観ともつかぬ複雑な感情は、若い世代に静かに広がっている。結婚や子育ては、経済力などの「資格」に左右されるようになったかのようだ。
韓国統計庁が23年8月に発表した調査によると、19~34歳の若い世代で結婚に対して「肯定的」な認識を持つ割合は22年時点で36.4%で、10年前の56.5%から大きく下がっていた。
住宅価格も上昇するなか
共働きでも将来が不安
未婚の若い世代で結婚しない理由で多いのは以下のようなものだった。「資金の不足」「必要性を感じない」「雇用状態が不安定」「出産や養育の負担」。経済的な要因が大きな影響を与えていることが読み取れる。

経済団体の「韓国経営者総協会」が21年にまとめたデータでは、韓国で従業員数が500人以上の企業は99人以下の企業と比べ、大卒者の初任給が5割ほど高かった。
また、韓国では1997年のアジア通貨危機を経て非正規職の割合が増えた。賃金や福利厚生などでも大きな差がつくほか、長く働いて安定した収入を得られる保証もない。
韓国中部の忠清北道(チュンチョンプクト)に住む女性(28)にも話を聞いた。
女性は非正規職で、スーパーのレジ打ちの仕事を担当している。毎日午後4時から11時まで働いている。
結婚についての考えを問う記者の質問に、「私は、結婚はしたいと思いますね。良い夫と出会い、力を合わせて暮らしたいんです」ときっぱり答えた女性は、一方でこうも言った。「ただ、いざ実際に子どもを産もうとなると、ためらってしまうような気もしています」
大企業で高給を得ているわけではない。結婚後も共働きで生活する必要があると思っている。だが、子育てしながら働き続けられるか。住宅価格が上昇するなかで家を準備できるだろうか。そんな不安から自由にはなれないでいる。
当然ながら、結婚するかどうか、子どもを持つかどうかは完全に個人の選択だ。ただ、これほど子どもが生まれない社会になったのは、やはり若い世代にそう思わせる社会の「構造」があるということだろう。