1人で家にいてもすることがなく、気が滅入るので、毎日、地下鉄でここに来て過ごすのだという。
こうした生活が苦しい高齢者はどれぐらいいるのだろうか。
この公園の近くには、リサイクル業者が廃棄物を引き取る施設があり、朝からリヤカーなどに廃品の段ボールなどをめいっぱい積んだ高齢者らがひっきりなしに訪れる。
高齢者の貧困率は
日本のほぼ2倍
こうした、段ボールなどの廃品を集めて歩くお年寄りの姿は、ソウルで暮らしていると街角でしばしばみかける。集めた廃品を業者に売ってわずかな収入を得ながら暮らすその姿は「高齢者の貧困の代名詞」とも言われている。
韓国政府が24年に発表した調査によると、こうした高齢者は全国に少なくとも約1万5千人いて、平均年齢は78.1歳という。実態はさらに多いとの見方もある。
記者は段ボールや古紙などを集める高齢者について、2年前にも取材したことがあった。
その当時76歳だった女性の言葉を、よく覚えている。若いころには食堂で働いていたというひとり暮らしの女性。早朝に家を出て段ボールなどを必死で集めても、毎月の収入は10万ウォン(編集部注/1万円強)ほどにしかならない。年金とあわせても40万ウォンを下回る。
厳しい生活ではあるが、それでも淡々と話していた。「この年でもできる仕事は、ほかにないからね」
高齢者の生活難、貧困の問題は、韓国がかねて抱えてきた大きな社会問題だ。
韓国の高齢者の貧困率は39.3%(21年)。
前年から少し下がって40%を下回ったが、それでも経済協力開発機構(OECD)の加盟国では1、2を争う高い水準だ。日本のほぼ2倍にあたる。韓国政府によると、OECD平均の3倍の水準だという。
韓国はかつて急速な経済成長を遂げた一方、企業中心の成長が優先されるなかで公的年金などの整備は遅れた。国民年金制度の導入は1988年だった。ソウル五輪が開催されたのと同じ年だ。