無料食事配布の風景写真はイメージです Photo:PIXTA

韓国はいま、3人に1人が65歳以上を占める“超高齢社会”の入口に立っている。国民年金制度の整備が遅れた影響もあり、無料の食事配布に並び、廃品回収で糊口をしのぐ高齢者も少なくないという。朝日新聞の稲田清英記者は現地で取材を重ね、現場の声から韓国の「老後不安」とその背景を描き出す。※本稿は、朝日新聞国際報道部『縮む韓国 苦悩のゆくえ 超少子高齢化、移民、一極集中』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

3食を無料提供でしのぐ
ソウルの87歳男性

 2024年の夏は、韓国も厳しい猛暑だった。

 朝から気温が30度を超えた8月の平日、記者(稲田清英)はソウルの中心部にある公園を訪ねた。取材などで何度も行っている公園で、周辺には慈善団体などによる無料の食事提供所がいくつかあり、いつも午前中から高齢者らの列が出来ている。

 汗をぬぐいながら、高齢の男性がひとりで、ゆっくりと公園の近くに歩いてきた。食事を受け取りに来たのだろうか。声をかけてみると、ソウル市内でひとり暮らしをしており、戸籍上の年齢は87歳だと気さくに話をしてくれた。妻は亡くなり、子どもは地方で暮らしているという。

 ソウルの自宅から毎朝、65歳以上は無料で乗れる地下鉄を利用して訪れる。朝食、昼食はいずれも無料で提供される食事でしのぐ。「パンや餅などがもらえれば、それを夕食にあてるんだ」とも話していた。

 毎月の収入も聞いてみた。国から老後の生活保障のために支給される「基礎年金」の32万ウォン(約3万4千円)が大半を占めるという。

「電気代や水道代などを払ってしまえば、大して残らないよ。生活に余裕はないね」と男性は言う。