前年から少し下がって40%を下回ったが、それでも経済協力開発機構(OECD)の加盟国では1、2を争う高い水準だ。日本のほぼ2倍にあたる。韓国政府によると、OECD平均の3倍の水準だという。

 韓国はかつて急速な経済成長を遂げた一方、企業中心の成長が優先されるなかで公的年金などの整備は遅れた。国民年金制度の導入は1988年だった。ソウル五輪が開催されたのと同じ年だ。

懸念されているのは
「老後格差」の深刻化

 このため、年金を十分に受け取れない高齢者が多く、韓国政府の統計によると、国民年金など何らかの年金を受け取っている人の平均受給額は月に65万ウォン(約6万9千円)。生きるために働き続ける高齢者が多い。

 公園での取材から数日後の8月下旬、依然として強い日差しが照りつけていた平日の午後。記者はソウル市内のオフィスビルなどが並ぶ通りにいた。76歳の女性が、道行く人にフィットネスクラブのチラシを必死に配っていた。

 高齢者によるこうした「チラシ配り」も街角でよく見かける。

 女性に収入を聞いてみると、「1日2時間で2万4千ウォン(約2500円)」と教えてくれた。もっと上げて欲しいと交渉したこともあるが、ダメだった、と残念そうな表情を浮かべた。

「年金もほとんどないから、少しでも働いてお金を稼がないと生きていけない。この仕事をしている人は多いけど、みんな暮らしに余裕がないんですよ」

 韓国政府は、経済的に余裕のない高齢者の暮らしを支えるために導入された「基礎年金」について、最大で月33万ウォンほどから40万ウォンへと段階的に引き上げる方針だが、それだけでは抜本的な改善にはなりにくい。食料品などの物価高が暮らしを直撃しており、所得の少ない層には苦しい状況だ。

 とはいえ今後、時間がたち、生活が成り立つ水準の年金を受け取れる高齢者が増えてくれば、貧困の問題も「自然と」解決していくのだろうか。専門家に話を聞くと、そう単純でもなさそうだ。

 韓国は今、1950年代半ば以降に生まれた「第1次ベビーブーム」世代が高齢者になりつつあり、さらに1960年代半ば以降に生まれた「第2次ベビーブーム」世代が続々と高齢者となっていく時代が近づいている。

 この世代はその前の世代に比べれば、たとえば大企業で長く働いた人などは老後も比較的余裕のある暮らしを送ることができそうだ。

 ただ一方で、働き盛りの年代にもかかわらず勤め先の業績不振や人員削減などで働き続けられなくなったり、自営業に進出してみたものの失敗したりした人も少なくない。