どこに載るかわからない広告、横行する詐欺
ネット広告が抱える3つの根深い問題

――なぜ、クオリティメディアコンソーシアムのネットワークでは、ブランド広告が7〜8割を占める状況になっているのでしょうか。

 それは、現在のネット広告が抱える3つの深刻な問題と関係しています。私たちはそうした状況に警鐘を鳴らし、改革するために、ブランド広告に力を入れているのです。

 問題の1つ目は「ブランドリスク」です。現在の運用型広告の約8割は、メディアを指定せずに配信される「オープンマーケット」です。つまり、広告主は「どのメディアのどの面に、自分の会社の広告が載ったかわからない」という状況が生まれています。

 その結果、フェイクニュースサイトやアダルトサイトに大手企業のブランド広告が掲載されてしまうといった事態が多発し、広告主のブランド毀損のリスクが顕在化しました。ネットだからといって許されるわけではありません。自社の広告が不適切な場所に載ってしまう「炎上」も増え、広告主協会なども、広告の掲載先を事前に、あるいは直後に確認しましょうという啓発運動を始めています。

 2つ目は「なりすまし詐欺広告」です。著名人や有名メディアになりすました広告が、FacebookやYouTubeなどのプラットフォーム上に堂々と掲載され、ユーザーをLINEやInstagramのDMといったクローズドな環境に誘い込み、投資詐欺などを行う手口が横行しています。これはもはや広告主の問題ではなく、プラットフォーム側の問題です。

 本来私たちのような、いわゆるクオリティメディアは、広告審査を厳格に行うので、こうした詐欺広告は絶対に掲載しません。しかし、主にAIで自動審査しているプラットフォームでは、そのチェックをすり抜けて掲載されてしまうことがあります。さらに問題なのは、プラットフォームが持つターゲティング機能が悪用され、「騙されやすい層」を狙い撃ちする「弱者ターゲティング」が行われていることです。これは審査体制以上に深刻な問題だと、私は考えています。

 3つ目は、「アドフラウド(広告詐欺)」です。広告収入を得る目的で作られた、中身のない広告ばかりのサイトやフェイクサイトに、ボット(自動プログラム)で大量のクリックを発生させ、広告主から広告費を騙し取る手口です。

 これら3つの問題が、今のデジタル広告市場には渦巻いています。結果として、日本インターネット広告協会(JIAA)が2021年にユーザーに対して行った5大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ネット)の広告についての信頼調査では、インターネット広告を「信頼できる」と回答した人が約24%にとどまり、すべてのメディアの中で「最も信頼できない」と思われていることがわかりました。

 信頼できない理由としては、「自分のデータが勝手に使われている不安感」「コンテンツを覆い隠すような不快な広告の表示形式」「広告審査がきちんとされているかどうかの不安感」などが挙げられています。

PROFILE
長澤秀行(ながさわ・ひでゆき)
クオリティメディアコンソーシアム事務局長、BI.Garage 特命顧問。1954年生まれ。東京大学卒。77年電通入社、新聞局デジタル企画部長を経て、2004年インタラクティブコミュニケーション局長、06年サイバー・コミュニケーションズ代表取締役社長、13年電通デジタルビジネス局局長、14年一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事を歴任。17年よりデジタルガレージ顧問、20年同社グループのBI.GARAGE取締役に就任。共著に『メディアの苦悩28人の証言』(光文社)

※「長澤秀行・クオリティメディアコンソーシアム事務局長に聞く(下)」は、9月17日掲載予定です。