
包丁やカミソリで知られる老舗総合刃物メーカー・貝印が、今大きな変革に取り組んでいる。デザインとマーケティングを一体化させ、ブランドを起点とした価値創出を目指す新体制だ。そのけん引役がCCO兼CMOの鈴木曜氏。プロトタイピングの量とスピードを武器に、知財部門との連携やポジティブな風土づくりに挑む姿から、100年企業が未来へ進むためのヒントが見えてくる。
目指すべき組織の姿
デザインとマーケティングは融合すべき
勝沼 鈴木さんは現在、貝印でCCO(チーフクリエイティブオフィサー)とCMO(チーフマーケティングオフィサー)を兼任していらっしゃいます。具体的な役割を教えていただけますか。
鈴木 貝印の特徴は、全てのプロダクトを一つの舞台で作っている点にあります。いわゆる事業部制ではなく、包丁もカミソリも調理器具も、同じステージで考える。ですから、マーケティング本部にも全社を統括する役割が求められます。
現在マーケティング本部には、プロダクト、パッケージ、グラフィックの三つのデザイン領域を担うデザイン部、ブランド商品戦略部、広報宣伝部、包丁研ぎの文化を育むマイスター推進部、市場調査を担うマーケティング部などがあります。その全体を管轄するのが僕の役割です。
勝沼 そのようなユニークな体制ができたのはいつからなのですか。
鈴木 僕がこの会社に参画したのは2017年です。その当時は、ブランドを統括する部署はなく、マーケティング部にも市場調査機能はありませんでした。デザイン部も開発部門の中にあって、いわば「依頼を受けて形にする」ことが中心の存在でした。
最初の役職は広報宣伝部長で、その後デザイン部長も兼任するようになりました。僕には「クリエイティブやデザインと、マーケティングは融合するべき」という持論があり、さらには「組織の在り方によって企業の性格は変わる」とも考えていました。
だから、両者を統合した組織をつくることを目標に据えたんです。当時の経営幹部には「デザインをもっと高度化すべき」とか、「ブランドを立ち上げて差別化すべき」とか、結構しつこくしゃべっていたと思います(笑)。
